技術力ではなく「積極的なリスク負担」で
優位に立つ

1

企業が新技術を市場に普及させるうえで、「リスクを積極的に引き受ける」という方法がある。収益を顧客の収穫高に連動させることで成功した、灌漑システムの世界最大手ネタフィムの例を見てみよう。本誌2014年4月号(3月10日発売)特集「ビジネスモデル 儲かる仕組み」の関連記事、第2回。


 ご存じかもしれないが、2012年の「世界食糧賞」(世界における食糧の品質、量、入手可能性を向上させることで人々の発展に貢献した個人に贈られる)は、イスラエルの科学者ダニエル・ヒレルに授与された。本人の言葉を借りると、「低頻度で大量の水による灌漑から、高頻度で少量による灌漑への移行という原理を発展させた」人物である。この方式は「点滴灌漑」として知られている。

 灌漑を大きな課題とする国々は多い。過去50年ほどのあいだに世界の人口は倍増し、灌漑用水の制約は世界各地でますます深刻な問題となっている。数々の研究では、点滴灌漑などの優れた灌漑方式が新たな開発を促進し、そうした開発が行われることで貧困、安全の欠如、開発の遅れという悪循環から多数の人々が救われ、地域の状況が変わるであろうとされてきた。

 しかし、点滴灌漑は新しい技術ではない。すでに120年ほど世の中に存在しており、多くの企業がそのシステムや製品を開発し販売している。では、なぜいまになって点滴灌漑が称賛されるのだろうか。

 それは、技術の普及がようやく最近になって可能となったからだ。その背後には、イスラエルの企業、ネタフィムによるイノベーションがある。現在ネタフィムは、一見コモディティ化されたように見える点滴灌漑市場の3分の1以上を握っている。

 ネタフィムの秘密は何だろうか。同社も他の企業と同様に、高度な製品をつくるための研究開発に投資してきた。たとえば1990年代に投入した新たな電子制御技術には、土地の水分含量や塩分、肥料や気象データなどに対応して水の供給を調整する高度なセンサーアレイ(複数のセンサーが束になったもの)などがあった。ネタフィムの試算によると、こうした最新の点滴灌漑システムの導入により、作物の生産量は300~500%増える。利用者にとっては魅力的な投資となるはずである。

 ところが、こうした優れた経済性にもかかわらず、このシステムは普及しなかった。

 その背景には、ほぼすべての新技術の採用に共通する問題がある。新技術を開発した企業は、その技術の性能や利用者に提供できるメリットを知悉している。しかし、利用者と技術開発企業のインセンティブは一致していないことが多いのだ。企業ができるだけ多く売ろうというインセンティブを持っているのに対し、利用者は最もリターンの大きなものだけに投資したいと考える。

1
無料プレゼント中! ポーター/ドラッカー/クリステンセン 厳選論文PDF
Special Topics PR
今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー
最新号のご案内
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS
DHBR Access Ranking