「満たされない欲求」が意志力を高める

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欲求や衝動をどうコントロールするかは、人々の普遍の課題だ。満たされない欲求は葛藤をもたらすが、その葛藤を「堪能する」ことで喜びや成果が増大するという。


 オレゴン州のアリソン・イン&スパで、リーダーシップ開発のオフサイト・ミーティングを開いた時のことだ。このホテルは私のお気に入りの1つで、食事はいつもどおり、とびきりおいしかった。ランチに出てきたキャロットケーキは絶品で、2切れいただいた。午後の休憩時間には、ホテルのスタッフが自家製クッキーを持ってきてくれた。大きくて分厚くて、もっちりしたクッキーを前に私の自制心は吹っ飛び、3つも食べてしまった。

 オフサイト・ミーティングは大成功だった。しかし、お腹は一杯で胃が重い。どうして私は食べ続けたのか?

 答えは簡単だ――誘惑に抗うのは困難だから。

 何かを欲しいと思うことと、実際にそれを手に入れることとの間にはギャップがある。ここで、ゴムバンドの片端にあなたが繋がれ、もう一方の端にあなたの欲しているものが繋がれていると想像してみよう。あなたは、欲しいもののほうへと引っ張られる。その力に抗い、ゴムバンドをピンと伸びた緊張状態に保ち続けるのは容易ではない。だから私たちは、緊張から解放されようとして、食べ、買い物をし、話し、行動する。これは、いったん緊張が解けると楽になれる、という考え方だ。

 しかし、現実はまったく違う。たしかにその瞬間――たいていは、きわめて短時間――気分はよくなる。しかしすぐさま、以前と同じ気分に戻るか、あるいは私の場合、なお悪い状態に置かれる。

 心理学では、この失望感を「快楽の踏み車」(hedonic treadmill)と呼ぶ。

 私たちは、自分をいい気分にしてくれそうなものや経験をたえず追い求める。しかし、それがいったん手に入ると、幸福感はすぐに元のレベルに戻る。そして何か別のものを求め始める。たとえば、欲しくてたまらなかった車のことを思い出してみよう。初めて運転席に座った時は、飛び上がるほど嬉しかったはずだ。夢見ていた瞬間がやってきたのだから。ところが数週間も経たないうちに、これまで持っていた車と変わらない気がしてくる。あなたはすでに、別の新車を求め始めているのだ。

 だとしたら、私たちが本当に欲しているのは、欲しているものを手に入れることではなく、「欲求」そのものなのかもしれない。言い換えれば、何かを手に入れるよりも、何かを欲しいと思うことのほうが心地よく感じられるのだ。

 最近見た映画のなかで、よかったものを思い出してみるといい。冒頭の数分で、何らかの問題が提示される。その後ストーリーの大部分は、まだ手にしていない何かを懸命に求める主人公の葛藤が描かれたはずだ。それが解決し、何であれ主人公が求めていたものを手に入れるのは、残り数分になってからだ。

 名作がこの公式に従うのは、いったん葛藤や緊張状態が消えてしまえば、観客を引きつけておく術がなくなるからだ。観客が感じる快楽の95%は、この緊張状態――サスペンス感と、先の展開への期待――において生じている。緊張状態は、ストーリーの解決部と少なくとも同じくらい心地よいもので、解決部よりも長続きする。実際のところ、私たちが解決を気にするのは、緊張と期待があってこそなのだ。

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