失敗の「義務化」で瀕死のPBSデジタルは再生した

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素早く失敗し、学習せよ――。ビジネス論文で再三強調されているこの教えを、実践できている組織はどれだけあるだろうか。デジタル化の波に乗り遅れていたPBS(米公共放送)を変えたのは、「失敗を義務づける」という斬新な方針だった。本誌2013年12月号 (11月9日発売)の特集「理想の会社」関連記事、第7回。


 ビジネススクールで扱われる論文では、リスクをとること、および早期の失敗を奨励することの重要性が強調されている。しかし、四半期ごとの業績が重視される現実世界では、失敗の尊重はCEOのスピーチでおざなりに触れられる程度だ。

 我々PBSデジタルは、失敗の奨励を口約束にとどめることなく、従業員1人ひとりに失敗を要求した。

 その結果、何が起こったか。尊敬はされていたが旧態依然としたブランドであったPBS(アメリカの公共放送サービス)が、デジタル放送界のリーダーになったのだ。

 失敗を評価基準として設け推進しようという我々の意思決定は、他の多くの事業における決定がそうであるように、窮余の策として始まった。2007年、当社のウェブサイトであるPBS.orgの訪問者数の伸びは低迷しており、新たなコンテンツの計画も枯渇していた。さらに悪いことに、デジタルチームには慎重さを重んじる文化が深く染み込んでおり、そのために身動きがとれなくなっていた。同チームの優先課題としては、PBS.orgの改編と新たな動画プレーヤーの構築の2つがあったが、2年間ほとんど進展していなかった。目に見える成果は、関係者からの要求が詰まった分厚いバインダーだけだった。

 その理由は簡単だ。テレビ番組の制作はデジタル業界とは異なるサイクルで動いており、番組制作の許可は通常2~3年も前に下りる。また、PBSはトップダウンの企業とはまるで正反対の組織だ。350以上の独立局にサービスを提供する会員制組織で、加盟局にはそれぞれの取締役会があり、目的やテーマ、戦略がある。

 数百ものオーナーがいるため、どんなデジタル作品でも誰かのニーズに合致しない可能性がある。加えて、PBS加盟各局は合衆国政府や州政府から少額ではあるが貴重な収入を得ている。つまり、麻痺状態となる条件が備っていたということだ。

 こうした文化はアナログの世界ではうまく機能した。「セサミストリート」から始まり40年近くの歴史を持つ子ども向け番組や、「NOVA」「ネイチャー」「マスターピース」「フロントライン」といったゴールデンタイムの人気番組を生み出してきた。上記の番組はどれも四半世紀以上続いている。

 しかし、それはアナログでの話だ。デジタルの世界では、コンテンツを実際に立ち上げずに長々と考え続ける組織は、生き残るのも難しくなる。

 そこで、2006年12月にPBSに加わった私は(デジタル部門のゼネラル・マネジャーに就任)、この会社の仕組みにショックを与えることを決めた。着任後すぐに、デジタルチームを会議室に集めて発表した。全員の年間業績目標を破棄し、新たな評価基準に「失敗」を加えると。

 私は全スタッフに独自の方針を伝えた。「今後1年のあいだに十分な回数の失敗をしなかった人は、評価が下がります」

 なぜなら、十分に失敗をしていなければ、安全策を取っていることになるからだ。

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