「多くの人を動かす力」を得る

ダニエル・ピンク氏 来日特別講演レポート(後編)

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ダニエル・ピンク氏と神田昌典氏による講演会レポート。前編では、社会の変化に伴ってセールスのあり方も変わったことを示した。後編では、影響力はどうすれば手に入れられるのか。どうすれば強くできるのか。そのためのエクササイズや実例の紹介を含め、影響力を強めることがなぜ大事なのかを明らかにする。

 

「売らない」セールスが求める3つの資質

「ビジネススクールではセールスについて教えてもらえません」とピンク氏は語る。「セールスについての研究者は少ないのが現状です。しかしながら、行動経済学や社会心理学、言語学といった様々な分野で研究は進められているのも事実です」

 ピンク氏はこうした社会科学的な研究から、「同調」(Attunement)、「浮揚力」(Buoyancy)、「明確性」(Clarity) の3つが新時代のセールスにおける重要な資質だと説く。すなわち、「相手の目線に立って物を見る力」、「拒絶に耐え、浮上する力」、「情報をキュレーションし、隠れた問題を発見する力」である。

「同調」がなければ人の共感を得られず、人を動かすことは叶わない。人に何らかの影響を及ぼそうとすれば、当然抵抗されることもある。そのような拒絶にあったとき、「浮揚力」がなければ前に進むことはできない。「明確性」がなければ人を惹きつけられず、物事の本質にはたどり着けない。だからといってこれらの能力は特殊なものではない。誰もが生まれながらに持っている能力であり、いかに磨くかが問われているのである。これらの能力に磨きをかけた人物こそ、大きな影響力をもつ存在となるのだ。

 

人を動かすのは易しくない

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Daniel H. Pink(ダニエル・ピンク)
エール大学ロー・スクールで法学博士号取得。クリントン政権下でゴア副大統領の首席スピーチ・ライターなどを務める。フリーエージェント宣言後、世界各国で講演活動を行い、各種メディアにも精力的に寄稿。2013年、「Thinkers50」に選ばれる。著書に『フリーエージェント社会の到来』(ダイヤモンド社)、『ハイ・コンセプト 』(三笠書房)、『モチベーション3.0』『人を動かす、新たな3原則』(以上、講談社)がある。

 誰もが経験している通り、実際に人を動かすことは容易ではない。相手の事情や感情を考慮したとき、人を動かすよりも先に自分が変わることが必要な場合もある。人を動かすのと同様、自分が変化することも簡単にはいかないし、急激に変化することは非常に困難である。「まずは小さいことから始めましょう。スモール・ウィンを積み重ねていくことが最も近道なのです」とピンク氏は話す。たとえば、人に自分の言うことを聞いてもらいたければ、人の話をまず聞くことだ。しかし身についた習慣はすぐ変えられるものではない。だから反応する前に2秒待つことを意識する。この繰り返しが「スモール・ウィン」につながり、共感力を高められるという。

 影響力を行使する上では発信力も重視される。あまりに内向的すぎれば伝えたいことも伝えられず、人を動かすことは叶わない。一方で、極端に外向的であっても「同調」に欠けるきらいがある。日本人はどちらかと言えば内向的ではあるものの、バランスの取れている人が多く、何より謙虚であることが日本人の強みだとピンク氏は語る。「特に権力を手にすると、だんだん相手の立場に立つことを忘れがちになります。自分の権力意識を下げることで同調力は上げられます。日本の優れたセールスパーソンは謙虚さが突出しており、常に相手の立場でものを考えているのです」

 発信する際には簡潔であることも重要だ。人は他人に理解してもらおうと、さまざまな情報を「足して」いく。しかし、情報が多くなればなるほど焦点は不明瞭になる。簡潔で優れた文章や詩の訴えかける力が強いように、情報を「引いて」いくことで、影響力はより強くできる。ピンク氏はこのような能力を磨くエクササイズとして、自分自身を一語で表現することが効果的だと勧める。

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