企業にとって社会問題の解決は、
義務ではなくチャンスである(後編)

ジョセフ・バウアー教授インタビュー 

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現代社会を形成した資本主義は、豊かな社会とグローバル化をもたらした。一方で、貧富の格差拡大や環境破壊といった問題も生み出している。このような資本主義の抱える問題に対して企業は何ができるのか、HBSで半世紀に亘って教鞭を執るバウアー教授に伺った。(前半はこちら

CSRでもCSVでもない。大きなビジネス・チャンスなのだ

――問題解決への取り組みが進まないのは、企業がリーダーシップを発揮することへのインセンティブがない、という構造的な問題かと思っていましたが、そうではないのですね。

 インセンティブならありますよ。もちろん企業の金銭的利益です。企業はこうした問題解決にあたって、どうすれば利益を上げることができるか見積もりますよね。これは「社会的責任」などではなく、至って単純な「ビジネス・チャンス」なのです。しかも持続的で、ちゃんと利益を生み出すビジネスです。

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ジョセフ・L・バウアー(Joseph L. Bower)
HBSの経営学教授。50年以上にわたり「経済的・社会的・政治的環境の大きな変化に、リーディング・カンパニーが直面する難題」をメインテーマに研究。HBS上席副学長、ハーバード・ケネディ・スクール(HKS)の公共経営講座の開発者、企業幹部向けのGeneral Management Programの創立座長、政府高級官僚向けのHBS-HKS プログラムの共同創立者。主著に “The CEO Within” (未訳), “Capitalism at Risk: Rethinking the Role of Business” (邦訳『ハーバードが教える10年後に生き残る会社、消える会社』(徳間書店、2013年)など。


 いくつかの例があります。チャイナ・モバイルをはじめとした中国国有通信会社は、西部地区にも通信網を発達させるように、中国政府から要請を受けました。西側と言えば貧しい農村部。ほとんどの会社は「分かりました」といって、ほんの少し拡大しただけでした。しかし、チャイナ・モバイルの新任CEOは「東部沿岸部の400万人は、みんな携帯電話は1~2台持って飽和市場になっているが、西部にはまだ700万人の市場がある」と考え、利益を生み出す画期的なビジネスモデルを考えたのです。

 アメリカのカミンズ・エンジンも同様です。競争力を高めるため、大きな工場をアメリカ国内に建設するつもりでしたが、国内の労働者の質を見て適当なところが見つかりませんでした。そこで彼らがやったのは、地元の教育の質をよくすることでした。大学をはじめとした地域の教育機関を説得し、優秀な教育者を招聘したのです。その結果、教育の質が上がり、生産性が向上し、労働賃金も上がり、労働者の生活環境も改善されました。本来は国が主導すべき教育分野に対し、一企業が時間はかけたもののお金はかけずに行動を起こし、結果として事業利益を得るに至った好例です。

 ナイキの無水染色技術も、環境負荷を削減するとともに事業の利益に大きく貢献しています。水を使わないことで乾燥も不要となり、大幅な省エネルギーが達成できました。よりよいものを、環境負荷を軽減した上で安くつくれる。これも社会的責任が主眼なのではなく、利益を生むことが目的でした。


――マイケル・ポーター教授が提唱する「共通価値の創出(CSV : Creating Shared Value)」と非常に近い考え方ですね。CSVについてはどうご覧になっていますか?

 CSVとは違いますね。企業の価値は「共通価値の創出」という理論ですが、我々は共通価値が主眼ではなく、あくまで企業が事業存続するための「利益の創出」が重要であると考えています。

 また我々は「政府が問題解決に取り組む能力がない」ということを出発点としています。いまの政府は教育、公衆衛生や移民問題の解決といったことに対して、公共財を提供する資金的余裕も力もなくなってしまいました。企業の経済活動がそれを解決できる、というのが我々の持論です。

 何より、我々は社会問題の解決を義務ではなく、ビジネス・チャンスと見ています。それも非常に大きなビジネス・チャンスと捉えています。企業は利益を生み出すのが目的ですから、政府ができないことを、ビジネスとして社会問題の解決に乗り出さなければいけません。

 医療分野を考えると、医療機関が独占的に支配しており、医療コストはとても高いものでした。しかし現在では、ウォルマートやCVS(アメリカ最大手の薬局チェーン)では予防接種も受けられるし、さまざまな検査もしてもらえます。しかも安く。小売企業によって、医療が産業化された実例です。

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