称賛より批判の方が効果的に思える理由

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部下のパフォーマンスを向上させるうえで、称賛よりも批判ほうが効果的である、という認識が生じるのはなぜか。筆者らによれば、それは「経験によって惑わされる」からであるという。統計的現象と心理バイアスを考慮することで、「称賛vs批判」の論争に新たな局面が見えてくる。


 部下に対してコーチングや業績評価を行う時、あなたはどこに注目するだろう? おそらくは、「改善の機会」ではないだろうか。もちろん、よい点にも少しは触れるかもしれないが、過失や欠点について話すことにより多くの時間を費やしているのではないだろうか。

 人というのは、えてしてそういうものだ。それは間違いではないし、理に反した行動でもない。実際のところ、ほめるよりも批判した時によい結果が生じた、という経験に従っているのではないだろうか。称賛よりも批判のほうが、業績の改善につながる場合が多い。したがって、仕事においてある程度の称賛は必要だが、批判こそが最善の手段である、という考えに帰結するのだろう。

 残念ながらこの点に関しては、経験から得られる教訓は確かなものではなく、誤解を招く恐れすらある。批判のほうが改善につながる場合が多いという観察結果は、おそらく間違ってはいない。しかしその裏では、あなたの想像とは違うことが起きている。それは実際には「平均への回帰」と呼ばれる現象であり、これを理解していないと、あなたと部下はその被害者になってしまうのだ(平均への回帰とは、ある時にたまたま平均を上回る、または下回る結果が出ても、次の測定時にはまた平均値に近くなる、という統計的現象)。

人間のパフォーマンスが完全な一貫性を持つということはありえない。これは、バイオリン奏者、体操選手、大学講師など、誰にでも当てはまる。そしてもちろん、あなたの部下、そしてあなた自身にも。最高の成果を毎日出し続けることはできないし、最悪の結果が永遠に続くこともない。これは誰もが知っている事実だ。だからこそ、たとえばサッカー選手の真の卓越性を評価する場合には、1つの試合だけで見るのではなく、シーズンやキャリア全体を通じて評価する。言い換えると、私たちはその選手の長期的なパフォーマンスの平均値を評価する。統計学の世界では、これを平均パフォーマンスと呼んでいる。

 部下の場合も同様で、タスクごとに見ていくと、平均値を大きく上回る優れた成果の後には、平均値に近いごく平凡な結果が見られるという傾向に気づくであろう。逆もしかり。最悪の結果の後には、もう少しよい結果になることが多い。この傾向には意図的な要素はない。これは人間の行動に組み込まれた変動性の一部であり、ある程度複雑な行動であれば生じるものだ。

 この事実が見過ごされる時に、問題や誤解が生じる。これだけ明白なことを、私たちはなぜ忘れるのだろうか。それは、パフォーマンスが平均値を中心に大きなバラつきを見せることを理解していても、私たちは直近のパフォーマンスを重視してしまうからだ。無意識のうちに、ごく最近の結果のほうが2日前や1週間前の結果よりも、能力全般をより忠実に反映していると考えてしまうのだ。私たちの思考は、最も新しい情報、最も入手しやすい情報、そして最も目を引く情報の重要性や精度を過大評価する傾向にある。

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