買収後に待ち受ける、
「文化の統一」という落とし穴

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特許の囲い込みを狙った買収は、合併後に組織の破綻を招くことが珍しくない。両者の企業文化を統一しようと徹底するあまり、組織の最大の強みが犠牲になることが一因だ。


 ポールは昔からの友人である。最近退職するまで、ある製薬会社で上級研究員として、創造性豊かな研究グループの責任者を務めていた。彼は我々の研究結果The Progress Principle(HBR Press、未訳。関連論文は本誌2012年2月号「進捗の法則」。有意義な仕事での進捗が社員のやる気を高める、という発見を詳述)を読み、進んで実体験を共有してくれた。

 ポールが働き始めた当初、彼の会社は創業したばかりで小規模だったが、最先端の研究を行なっていた。やがてこの新興企業は医薬品開発で成功し、大手の多国籍企業に買収された。不幸なことにこの大企業は、買収した会社の真の価値が特許ではなく、その人材と慣行であることを理解していなかった。

 本社が真っ先に取りかかったのは、有意義な仕事で進捗を得られるよう社員を後押しすることではなかった。全員参加の会議を何度も開き、「ベスト・プラクティス」なるものについて話し合ったという。この会議は、2つの組織(買収企業と被買収企業)のオペレーションに「ハーモニー」をつくり出すことを目的としていた。しかしその真意は、ポールと彼のグループにこれまでの慣行を捨てさせることにあった。実はそれらの慣行こそ、ポールの会社を魅力的な買収候補とし、この買収を決定づけた要因であったのだ。もしもこの「ハーモニー」の取り組みが断行されれば、惨憺たる事態を引き起こすことになる。

 幸いにもポールは、チームがイノベーションの追求を続けるために必要なことを即座に理解した。すなわち、生産性に対する本社の期待に応えると同時に、自分たちの現在の職場環境を守る方法を見つけることだ。一連の「ベスト・プラクティス会議」のあとに、COO(最高執行責任者)が調整状況を確認するためにポールの職場を訪れた。その日の終わりにCOOは、ポールに指摘した。ここでは「ハーモニー」の取り組みがほとんど見られず、ポールのグループは独自のやり方を続けているように見えると。

 ポールはたまたま優れたアマチュア歌手であり、合唱団で定期的に歌っていた。そこで、COOに次のような伝え方をした。「“ハーモニー”と“ユニゾン”には違いがあります。ハーモニーとは、歌手たちが異なる旋律を歌うことです。複雑な旋律が見事に絡み合って協和音を奏で、皆が気持ちよく感じます。ユニゾンとは、皆が同じ旋律を歌うことですが、こちらはハーモニーのような豊かさや満足感は得られません」

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