日本たばこ産業社長・小泉光臣氏に聞く
「漠然とした不安感と健全な危機感(後編)」

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日本たばこ産業社長小泉光臣氏の連載後半。前回は、なぜグローバル化戦略を進めたのか、その理由を伺った。後半では同社が「マーケティングの教科書を書き換える」という心づもりで行った、ブランド名称変更の話を中心に伺う。


編集部(以下青字):マイルドセブンというブランドをメビウスに変更したことは、大きな決断だと感じます。このプロセスについて教えてください。

小泉 光臣
(こいずみ・みつおみ)

日本たばこ産業株式会社 代表取締役社長。
1957生まれ。東京大学経済学部卒業。1981年日本専売公社入社。2009年 同 代表取締役副社長 たばこ事業本部長を経て、2012年より代表取締役社長。

小泉:まず、マーケティングの観点からお話しします。たばこ業界は景気の波を受けにくいというのがここ50年くらいの定説でした。ところがリーマンショックによって、この定説が覆されます。リーマンショック後の不況で、ヨーロッパ市場では高いタバコから安いタバコへ切り替える人が増えました。さらに、ヨーロッパ諸国の財政が苦しくなると、たばこは増税によって値段が上がります。そうなるといわばダブルパンチでタバコの売り上げが大きく下がった。

 このことから、わが社のプロダクトポートフォリオ/ブランドポートフォリオは、好況・不況に対応できているのかと考えました。自社製品を見ると、価格の安い、自分で巻くタバコをほとんど手掛けていなかった。そこで廉価な手巻きタバコで欧州トップのグリソン社(ベルギー)を買収しました。

 一方で、好況の時に求められるような高価格帯に位置するブランドもけっして万全とは言えない状況でした。そこでマイルドセブンをプレミアムブランドとしてグローバルに配置できれば、ポートフォリオは強くなると考えたのです。しかし、ヨーロッパ市場に打って出ようとしたときに、マイルドという言葉が規制により使えなかった。ブランド名を変えてまで行くか、行く必要がないかという判断をしなければならなくなったのです。

――国内と海外でブランド名を変えてもよかったのではないでしょうか。

 もちろんそのような選択もあります。しかし、海外と一括りに言っても、マイルドセブンはアジア各国にもお客様がいます。しかも、アジアでたばこを販売する際には、「日本で売れている」「日本オリジン」であるというブランドイメージが果たす役割が大きいのです。

 日本だけマイルドセブンで、海外を別ブランドにすると、アジアで展開する際に日本オリジンのイメージを付与できなくなってしまいます。そこで、ブランド名を変え、グローバルブランドにすることを決意しました。

――ブランド名を変えることで、日本のシェア低下も考えられます。

 仮に日本で名前を変えて、お客様のマイルドセブン離れが起きても、他の国でそれ以上のシェアを拡大できれば経済的には合理性を帯びます。しかし、そうは言っても、マイルドセブンはJTの国内たばこ売り上げの半分を占めています。雪崩を打って、マイルドセブン離れが進むと、今回のブランド名変更は、世紀の愚策だったと言われても仕方がありませんし、そのようなことは起こしてはいけません。

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