日本たばこ産業社長・小泉光臣氏に聞く
「漠然とした不安感と健全な危機感(前編)」

DHBRインタビュー

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日本たばこ産業(JT)は世界市場へいち早く飛びだし、グローバル化に成功している。前身の専売公社は規制に守られた事業でありながら、なぜリスクをとる体質に変われたのか。同社代表取締役社長小泉光臣氏へのインタビューを2回に渡ってお届けする。

 

編集部(以下青字):前身の専売公社は、規制で守られた事業でありながら、なぜリスクをとる体質に変われたのでしょうか。

小泉 光臣
(こいずみ・みつおみ)

日本たばこ産業株式会社 代表取締役社長。
1957生まれ。東京大学経済学部卒業。1981年日本専売公社入社。2009年 同 代表取締役副社長 たばこ事業本部長を経て、2012年より代表取締役社長。

小泉:我々には1985年の民営化以前から国内単品事業では早晩事業の限界を迎えるだろうという、切羽詰まった問題意識がありました。成人人口の減少も見えていましたし、喫煙と健康の関わりが話題になり、それが国内のたばこ事業に影を落とすだろうということは予測できました。さらに将来的に、国の財政状況のいかんによってはたばこ税の増税も考えられます。事業に対するリスクを棚卸すると、国内単品という事業形態に対する危機感が非常に強かったのです。グローバル化をはじめ、すべての戦略はこの危機感に根付いたものでした。

――この危機感が社内で共有されていたのはいつごろからですか。

 85年当時にも漠然とはあったと思います。少なくとも私はその危機感を持っていました。当時私は、臨時制度問題改革本部という専売公社からJTに衣替えする、独占だった市場を開放しようというプロジェクトにいました。そのため、市場が開放されて環境が変わることへの危機感や、国内だけで事業を行うことへの危機感は強かったです。社内全体でも90年代を迎えると、そうした危機感は幾ばくか醸成されていたのだと思います。ただ、そのころの危機感はいまからみると、まだまだ不安感に近いものでした。

 私は危機感と不安感は全く違うものだと思っています。漠然とした不安感は組織をダメにしますが、健全な危機感は組織を強くします。漠然とした不安感が組織にある時、それは健全な危機感に方向転換しないといけません。環境変化が起こるのはわかっていて、それに対して不安だ、不安だと言っていても何も始まりません。一度、不安感を飛び越えて、危機感に変えなければいけないと思っています。

――不安感が危機感へと変わる契機はありましたか。

 99年のRJRナビスコのアメリカ国外のたばこ事業(以下、RJRI)の買収は、事業上はグローバル展開のプラットホームづくりと説明ができるのですが、社内・組織に注目すると、漠然とした不安感ではなく、健全な危機感へ変わる契機だったと思います。グローバル市場で成功しなければ、会社は生き残れないと大半の社員が明確に意識した出来事でした。

――買収を通して、組織全体に危機感を植え付けたということでしょうか。

 そうですね、植え付けたというと少し言葉が過ぎるかもしれません。危機感が醸成されたということだと思います。これはもちろん買収の目的ではありません。思わぬ副産物だったと言えるでしょう。

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