日本的な中期計画の限界

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中期経営計画も毎年の計画に取って代わられるスピードの時代、もはや長期的展望は必要ないのだろうか。しかし、社会の構造的な変化など、大きな潮流は間違いなく存在する。5年10年といわず、30年先を考えてみることは、長期的な成長戦略を考えるうえで非常に大きな刺激となるだろう。ブーズ・アンド・カンパニーは、2040年までの世界の方向性について3つの分野、10のメガ・トレンドを見出した。本連載で全15回にわたって紹介していく。

 

短期化する経営計画

岸本 義之
(きしもと・よしゆき)

ブーズ・アンド・カンパニー 東京オフィス ディレクター・オブ・ストラテジー
東京大学経済学部経営学科卒業、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)、慶応義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了、博士(経営学)。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て現職。20年以上にわたり、金融機関を含む幅広いクライアントとともに、全社戦略、営業マーケティング戦略、グローバル戦略、組織改革などのプロジェクトを行ってきた。早稲田大学大学院商学研究科客員教授を兼務。主著に『メディア・マーケティング進化論』(PHP研究所)、『金融マーケティング戦略』(ダイヤモンド社)、訳書に『マネジメントの世紀』(東洋経済新報社)、『マーケティング戦略論』(ダイヤモンド社)などがある。

 多くの日本企業では、かつて「長期経営計画」もしくは「長期経営ビジョン」が作成されていた。これらは5年ないしは10年後に向けての道筋を示し、そこに向けてどのような戦略を打っていくかを記したものであった。しかし、技術革新などの経営環境の変化のサイクルが早まるにつれ、5年や10年では長すぎるとの認識のもと、3年程度をカバーする「中期経営計画」にとって代わられ、それがさらに毎年作成される「ローリング型中期経営計画」になってきた。ローリング型で経営計画を毎年作成するのはかなり大変な作業になってしまう。そのため、単年度の事業計画の後ろに「2年目と3年目はこうなりそうです」という付録がついたようなものになり果てる。付録のほうは後から顧みられることもなく、要は単年度の事業計画のみで走ることになる。

 単年度の事業計画で場当たり的に走り続けるとどうなるのだろうか。事業構造の大枠を見直すという大局的な観点は完全に抜け落ち、既存の事業部の構造を前提にした事業部計画がボトムアップで作成され、それをホチキスで綴じたものが全社の事業計画となる。市場の構造が大きく変わったり、新興国などの新たな競合が積極的な拡大戦略を打ってきたりしているにも関わらず、そうした変化への対処はつねに後手に回り、かつての成功体験の前例を踏襲したような打ち手に終始し、グローバルで見ると完全な周回遅れの地位に転落する。

 では、「かつての成功体験」とは何だったのだろうか。欧米の同業他社に「追いつき追い越せ」と製品改良を続け、生産技術を磨き上げ、「いいものを安く」製造して世界に供給し、世界経済の右肩上がりに応じて規模を拡大してきたというのが、多くの産業の発展パターンであった。しかし、これからの時代に、このパターンを踏襲するだけで成長を持続させることは困難である。製品改良の面でも生産技術の件でも、日本企業は「追いつき追い越せ」の段階を終えており、追いかける目標を失ったまま、むしろ過剰品質の領域に突入している。「いいものを安く」で日本企業同士が熾烈な価格競争を繰り広げた結果、全社が低利益構造にあえいでいる。先進国経済の右肩上がりは終わりを告げ、「山あり谷あり」の景気サイクルになってしまっている。一方で新興国企業が、段違いの安さで新興国の新中間層の顧客向けにビジネスを急拡大し続けており、日本企業は「置いてけぼり」になりつつある。

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