【名著拝見】『企業成長の理論』第1回
半世紀を超えて、なお読み継がれる理由

経営学に「人」の重要性を説いた古典をひもとく

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本誌2013年11月号(10月10日発売)の特集テーマは「競争優位は持続するか」。そもそも企業の競争優位は持続するのか、いかにして企業は成長しうるのか。特集テーマに合わせて、1959年から読み継がれているMBA必読の古典『企業成長の理論[第3版]』の抜粋を本日から7回にわたって紹介する。原著の歴史と経緯がわかるよう、第1回は慶應義塾大学商学部 日髙千景教授による「訳者あとがき」、第2回・第3回に著者ペンローズによる「第3版への序文」を紹介の後、第4回以降、本文を順次公開していく。

 

「訳者あとがき」より

 本書は、Edith Penrose, The Theory of the Growth of the Firm, Third Edition(Oxford University Press, 1995)の翻訳である。同書の初版が出たのは1959年であり、この第3版はそれから36年もの歳月を経て出版されている。また、初版から50周年にあたる2009年には、新たにピテリス(Christos N. Pitelis)によるイントロダクションが付された第4版も出版された。その表紙には、おそらくは晩年のものであろうが、見る側までもが幸せな心もちになるような笑顔の著者ペンローズの写真が、また巻頭には、初版執筆当時の少しはにかんだ表情の彼女の写真が掲載されている。

 訳者が初めてペンローズの業績に接したのは、横浜国立大学経営学部の2年次に受講した故稲葉元吉先生の講義のなかでのことである。経営者の提供できる用役(サービス)が、企業の成長を促しもするし、また、一時的に制限を課すというロジックに強く興味を引かれ、末松玄六先生の訳された『会社成長の理論(第2版)』(ダイヤモンド社、1980年)を買い求めた。当時学生が手に取る経営学の文献には、すでにペンローズの議論をベースとしたものがたくさんあり、そのことを大きな励みとして読み進めたものの、その難解さには何度も音を上げた。

 ペンローズの議論をもう1度きちんと学びなおさなければならないと考えるようになったのは、大学で経営史の講義を担当することになってかなりの年数を経てからである。経営史という学問分野は、シュンペーター(Joseph A. Schumpeter)の提示した、経済発展の原動力としての「新結合」やその担い手たる「企業者」という概念を重要な基礎としている。また、この分野には周知のようにチャンドラー(Alfred D. Chandler, Jr.)という偉大な歴史家の存在があり、そこから学びうることはきわめて多い。しかし、とりわけ第2次世界大戦以降の企業の歴史に見出されるさまざまなトピック──米国を例にとれば、コングロマリット・ブームと非関連型多角化の増大、事業縮小・事業売却の増大、「株主価値最大化」という考え方の台頭など──を一貫した視点で考察し、それらが企業の競争力や革新能力などに与えた影響を理解していくには、経営行動を説明する強固な論理を一方に据えて、それとの乖離がなぜ、どのように生じたかを問うてみることが必要だと考えるようになった。そして、それには、ペンローズが企業の発展の歴史をつぶさに追いながら構築した企業成長のメカニズムの理論枠組みが最もふさわしいように思えたのである。

 訳者は、専門の翻訳家でもなければ、英語の能力に恵まれてもいない。前述した事情で始めた原書との格闘を訳書として出版するには、大いに躊躇した。前記の訳書はもはや絶版となっており、入手がきわめて難しい。一方、原書は途方もなく難解である。しかし、今日、企業固有の資源や独自の能力あるいは企業内の学習や知識(とりわけ暗黙知)の重要性を強調した研究が発展するなかで、ペンローズの議論はかつて以上に言及される機会が増えている。それは、彼女の理論枠組みが企業の本質を明確に捉えたものであることの証左であろう。また、そうした学術上の意義は言うに及ばず、本書の記述のなかには、時代を隔てた現代の企業にも通じる指摘が数多く見出せる。

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