大企業は「速さ」より「巧さ」を活かせ

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「大規模事業の運営」と「起業家的な行動」はそもそも対立しやすい。大企業が新規成長事業を成功させるためには、根本的な問題に目を向け対処する必要がある。


 先日、私はあるアジア大手企業で新規成長事業のリーダーを務める人物に会った。本社から何キロも離れた場所にあるオフィスをリーダーは誇らしげに案内して回り、閉鎖的な本部に比べて、ここはオープンでエネルギーにあふれていると話してくれた。たしかに、若いスタッフはお酒と軽食がたくさん用意されたラウンジで楽しんでいるようだった。

「ところで、親会社からはどんなバックアップを得ているのですか?」と私は尋ねた。

「まったく何も」。とくに気負うこともなく、その女性リーダーは答えた。「もちろん資金はもらっていますが。それ以外は、完全に任されています」

 リーダーの夢を壊したくはなかったが、実はたいへん困難な状況にあることを私は静かに告げた。制約にしばられながら、厳しい戦いをしているのが実状だ。しかも、彼女が負ける確率は非常に高い。

 エール大学経営大学院のディック・フォスター教授によると、企業1社では市場全体よりも速くイノベーションを起こすことはできないという。なぜだろうか? ベンチャー企業と、大企業が立ちあげた独立事業の違いについて、以下の3点を検討してみよう。

1.人材
 ベンチャー企業は、可能な限り最善の人材を活用してチャンスに挑む。大企業の独立事業は、主要なリーダーを親会社のなかから選ぶことが多い。たとえその人物が、関連する経験を持っていなくてもである。

2.資金
 ベンチャー企業が手にできるのは限られた資金で、それを使って有効性を実証しなければならない。資金が尽きる前に、試行錯誤して成功することが求められる。大企業の独立事業は、通常は年間の予算策定プロセスを通じて資金を得る。無残な失敗をしない限り、最初に決められた戦略に沿って事業を進める。しかし当初の戦略はたいてい間違いが露見する。途中で調整を行わないのはよろしくない。多すぎる資金は不幸の元凶である。

3.ガバナンス
 ベンチャー企業を統治する取締役会は、創設者、資金提供者、顧問など多岐にわたる人々で構成されている。取締役会は少なくとも月に1回は開かれ、緊急案件があればすぐに招集される。大企業の独立事業は、親会社がコントロールしている。経過が検討されるのは、四半期に一度程度だろう。上級幹部のスケジュールに会議を入れるのに、数週間かかることもある。素早い意思決定など考えられない。

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