【書籍拝見】『ビジネスで一番、大切なこと』③
激しく競うほど、互いの違いは小さくなる

ヤンミ・ムン教授の「消費者のこころを学ぶ授業」

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 紛らわしいのは、真実と神話の違いが時間の流れでしかない場合があることだ。バスケットも一昔前は攻撃力が勝利のカギを握っていたが、今は逆だ。実際、60~70年代には新しさや改善が大きな意味を持っていたが、もはやたいした注意は払われない。変化はリアルタイムで生じるが、古くなった真実は1度に消え去るのではなく、あいまいな形で残る時期もある。

 ビジネスの世界もまた、変化している。様々なカテゴリーで差別化が神話となりつつある。企業は一丸となって競い合ってはいるが、意味のある違いを生み出すという使命を見失っているように見える。激しく競えば競うほど、互いの違いは小さくなり、精通したプロでなければ見分けがつかなくなる。要は、類似性ばかりが目につくのだ。消費者の心の中では製品の区別がつかず、まぜこぜになっている。携帯電話のベライゾンとAT&Tワイヤレスは過激な競争を繰り広げているが、両社のサービスに有意義な違いを認められない消費者にとっては無意味なものだ。

 本来の意味での差別化は珍しくなっている。シリアル、携帯電話の料金プラン、スニーカーなど周囲を見渡してみても、ユニークさで傑出したブランド名を挙げるのは難しい。

 そう言えば、息子たちがよく変わった鬼ごっこをして遊んでいる。追いかけられてタッチされると、立ち止まって鬼とジャンケンをして、負けた方が鬼になる。年齢や性別、足の速さに関係なく、誰でも参加できる。どの時点でも誰かが勝っているが、大差がつくわけではなく、勝利も長続きしない。理論的には永遠に続けられる。この遊びの面白さは、少なくとも親の目から見れば、みんなが夢中になりながらも、誰も1人勝ちできないところにある。

 本書の第1部の前提はこうだ。多くのカテゴリーで差別化が難しくなっているのは、私たちが本来の競争ではない「競争」に入り込んでいるからだ。企業は特殊な模倣の達人となり、異質的同質性、いわば異種のクローンであふれる製品カテゴリーを作り出している。差別化どころか模倣である。ところが、この模倣は「差別化」という専門用語の仮面を被り、マネジャーの頭の中で生き続けている。実際には、王様は裸で、消費者はそのことに気づいているのだが。

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 幸い、本書には続きがある。第2部では「例外」に注目したい。

 もし、過去20年の優れたビジネスストーリーを挙げるとしたら、どのカテゴリーでもかなりの数が「例外」として描かれるだろう。50年代のセルティックスのビジネス版だ。例外的な企業の優勢は、世界が変わりつつあること、古い知恵が新しい知恵に取って代わられようとしていることの予兆である。そこでは、神話を最初に手放した者が優位に立つ。

 これらの異端児を調べれば、有益な教訓が見えてくる。誰でも文章の書き方、絵の描き方、音楽の演奏法を学ぶことはできるが、歴史に名を残す巨匠は常に、それぞれの分野の境界線を新たな方向へと広げてきた。原則を十分に理解しているからこそ、それを打破しなければならないと知っている。彼らが教えてくれるのは、暗黙の前提がどれほどもろいか、である。

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