経験とボキャブラリーを駆使して
良循環を創造する

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「社会システム・デザイン」の第2ステップは、良循環の創造である。今回は身近な問題である「少子化」を例に、考えるヒントを提示する。元マッキンゼー東京支社長であり、現在、東大エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP)で次世代リーダーを育成している横山禎徳氏の好評連載、第4回。


「悪循環」を定義した次のステップは「良循環」を創造することである。「悪循環」は英語でvicious circleというが、「良循環」は virtuous circleという。後者は昔からあった表現ではなくvicious circleとの対比で新しく造語されたようだ。従って、「善循環」「好循環」「良循環」といろいろな訳語があるらしい。

「好循環」という表現はよく使われるが、自分にとって好ましい、都合のいい循環という、どこか主観的な判断の印象が強いので、ここでは社会全体にとってプラスになるという意味でもっと客観的な「良循環」という表現を使う。これは単なる語感の違いだけではないと思っている。ちなみに「悪循環」は大辞林に載っているが、「良循環」もその他の2つの表現も大辞林にはまだ載っていない。

十分に考える――しかし、「おはぎも3つまで」

横山 禎徳
(よこやま・よしのり)
社会システムデザイナー。前川國男建築設計事務所、デイヴィス・ブロディ・アンド・アソシエーツを経て、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社マッキンゼー・アンド・カンパニー元東京支社長。現在、三井住友フィナンシャルグループ、三井住友銀行、オリックス生命、社外取締役。東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP) 企画・ 推進責任者。「社会システム・デザイン」という新しい分野の確立と発展に向けて活動中。

 すでにちょっと触れたが、中核課題に答えるような形で、今、世の中に存在していない「良循環」を新たに創造しないといけない。このような新しい「良循環」は「悪循環」の裏返しではないことに留意していただきたい。実際、「悪循環」を裏返して「良循環」を作ってみようとやってみればよくわかる。もしそれができたとしたら、表面的な現象の説明でしかない、できの悪い「悪循環」の裏返しであり、中核課題から導き出した「良循環」ではない証拠だともいえる。

「導き出す」といっても演繹的に導き出すのではなく、中核課題という課題に対して、自分の過去の経験と培ってきた「ボキャブラリー」(語彙)を駆使して「良循環」を創造する。この作業がまさに「デザインする」という作業である。この「ボキャブラリー」、あるいは事例を頭の中の引き出しの中にたくさん持っていることが「社会システム・デザイナー」としての年季を示しているともいえる。日常の事例収集も大事な作業である。

 このステップでは効果の期待できそうな「良循環」や、そうでもなさそうな「良循環」などたくさん出てくる。よく眺めてみて、何度も作り直しをしたり、絞り込みをしたりする作業を行う。

 いくら工夫してみてもすぐれた「良循環」が出てこない場合は、「悪循環」が中核課題を明快に捉えているかどうかの問題もありうる。このステップでもがき苦しんでいると、「悪循環」、そして中核課題の別のアイデアが出てきたりする。その場合は、前のステップに帰ってやり直しをしてみることも必要だ。

 このように行ったり来たりするプロセスを通じて段々と答えるべき中核課題の理解が多面的になり深まっていく。その結果を反映したうえでいくつか残った「良循環」の中から優れたものを選ぶのである。

 最後に選んだ「良循環」が必ずしも1つとは限らない。複数の場合もある。しかし、次のステップである「駆動エンジン」としてのサブシステムは、その構築と運用にお金がかかるので、実現性を考えるとあまりたくさんの「良循環」を選ばないほうがいい。少し古いが、「おはぎも3つまで」という格言は正しい。すなわち、どんなに甘くておいしそうであっても(個人的にはおはぎはあまり好きではないので1つでうんざりだが)経験則として「すべて3つまで」である。

 また、「良循環」はうまくめぐり始めると波及効果があるので、その結果を見た後、別の「良循環」が作りやすくなることもある。いくつか「良循環」がある場合は時間差で実現を考えることも必要だ。

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