企業変革の2つのモード(その13)
正しさよりもシンプルさ

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GEのジャック・ウェルチと普通のCEOの最大の差は、普通のCEOが「優れた人」であるがゆえに、「正しいこと」にこだわり、「間違い」を回避しようとする点にある――。恒例の連載、今回もCEOの適性を引き続き喝破する。

 

 変革のリーダーとしてのジャック・ウェルチの凄み。その2つ目の論点は、変革に向けて打ち出す施策が過剰にシンプルであるということだ。「過剰にシンプル」というのは、あくまでもシンプルさ、わかりやすさを優先し、「正しさ」を半ば意図的に劣後させるということを意味している。

 その好例が、いの一番で表明した「ナンバー1、ナンバー2戦略」だ。すでに話したように、ウェルチが下したこの方針は、その後長きに渡るGE改革の劈頭であり、一連の創造的破壊の、とくに「破壊」の部分の起爆剤となった。

「ナンバー1、ナンバー2戦略」、これは論理的には「選択と集中」という話であり、それ自体はとくに目新しい方針ではない。「選択と集中」は企業変革において往々にしてカギを握るアクションとなる。なぜかといえば、選択と集中の結果として、既存の事業のうち特定のものが破壊されるからである。繰り返し指摘してきたように、企業変革の本質が創造的破壊であり、その難しさが「創造」よりも「破壊」にあるとすれば、「選択と集中」は「破壊活動」として正攻法であるといえる。構造改革に臨む多角化した大企業のCEOであれば、だれもが考えることだ。

 にもかかわらず、普通の(優れた)CEOは、なぜ「選択と集中」による既存の構造の破壊を、ウェルチのように徹底してやりきれない場合がほとんどである。それはなぜか。一方のウェルチはなぜ破壊活動を徹底できたのか。

 その答えは、普通の(優れた)CEOが「正しい」ことをやろうとすることにある。逆に言えば、ウェルチは「正しさ」を犠牲にしても「シンプルさ」を優先する。組織のメンバーの多くが怯み、無意識のうちに回避したくなるのが破壊活動である。だから、変革のためのアクション、とくに破壊に向けたアクションは徹底的にシンプルで解釈の余地がないほどわかりやすくなければならない。そうでなければ、破壊を実行できない。この基本姿勢が「ナンバー1、ナンバー2戦略」の根底にあると僕は考える。

 考えてみてほしい。「ナンバー1もしくはナンバー2であること」。この事業選択の基準は、はたして「正しい」といえるだろうか。事業からの撤退や新規事業への投資は極めて重大な意思決定である。判断の基準は、それこそ無限にあり得る。そのうちのどれを重視するかも、その事業の性質や置かれている状況次第で大きく変わってくる。

 例えば、成熟した事業であれば、将来の成長が見込めない代わりに、短期的な収益の刈り取りが重視されるべきであるし、逆に伸び盛りの成長市場を相手にした事業であれば、目先の利益を犠牲にしても、成長性が重視されてしかるべきだ。事実、すでにみたように、前任者のレグ・ジョーンズの時代に世の中を席巻したPPMは、このように事業特性や状況に応じた基準の使い分けによって、全社的な全体最適を実現しようとするものであった。

 ところが、ウェルチの持ち出した事業選択の基準は、ことや場合に関わらず、「ナンバー1、ナンバー2」、それだけである。ウェルチはこの一つの基準に忠実に事業の選別を断行した。例えば、家電事業からの撤退。この事業はGEにとって数少ないB to Cの事業であった。全米の家庭に”Genereal Electric”のバッチがついた製品が行き渡ってきたという歴史的事実は、GEにとって貴重なブランド資産であり、このことを考慮すればその時点での市場地位が多少低下していても、切り捨ててしまうにはもったいないという判断もあり得る。このような声があったにもかかわらず、ウェルチはすっぱりと撤退を決断する。当然、社内外には反対の声があった。しかし、ウェルチはこともなげにはねつける。理由は「ナンバー1、ナンバー2でないから」。

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