社会システム・デザインは
「身体知」であり「高度技能」である

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これまでのような産業立国的な発想では立ち行かないし、かといって、他国の「社会システム」をそのまま持ってくることもできない。それではいったい、社会システムをどのようにとらえたらよいのか――。元マッキンゼー東京支社長であり、現在、東大エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP)で次世代リーダーを育成している横山禎徳氏が、これからの日本に必要な考え方を紹介する、読み応え抜群の好評連載、第2回。


「社会システム・デザイン」の枠組みとアプローチをこれからできるだけ詳しく具体的に語っていくつもりだ。あまり日常的な作業ではないので、言葉自体になじみがなく分かりにくい上、頭でわかったからといってすぐに使いこなせるわけではない。頭と手を動かす練習がかなり必要だ。また、多くのコツが存在する。

 実は、身体全体で覚えないといけないという意味では、テニスやピアノと同じような「身体知」であるといっていい。なんだかよく分からないところもあるが、どこか面白そうだと思ってもらえることを願っている。

「自分で自分を作り出す」ことは可能か

横山 禎徳
(よこやま・よしのり)
社会システムデザイナー。前川國男建築設計事務所、デイヴィス・ブロディ・アンド・アソシエーツを経て、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社マッキンゼー・アンド・カンパニー元東京支社長。現在、三井住友フィナンシャルグループ、三井住友銀行、オリックス生命、社外取締役。東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP) 企画・ 推進責任者。「社会システム・デザイン」という新しい分野の確立と発展に向けて活動中。
主な著書に『東大エグゼクティブ・マネジメント 課題設定の思考力 』(共著、東京大学出版会)、『循環思考 』(東洋経済新報社)、『アメリカと比べない日本』(ファーストプレス)、『「豊なる衰退」と日本の戦略』(ダイヤモンド社)、『マッキンゼー合従連衡戦略』(共著、東洋経済新報社)、『成長創出革命』(ダイヤモンド社)、『コーポレートアーキテクチャー』(共著、ダイヤモンド社)、『企業変身願望-Corporate Metamorphosis Design』(NTT 出版)。その他、企業戦略、組織デザイン、ファイナンス、戦略的提携、企業変革、社会システム・デザインに関する記事多数。

「社会システム」は新しい表現ではない。社会学者は社会全体を「社会システム」と長年呼んできた。しかし、このように定義した「社会システム」は巨大で複雑すぎて、それをデザインするのは人間の能力を超えている。では神様が「社会システム」を作ったのかというと、それでは科学でなくなり、社会学としては困る。そこで一部の社会学者が考え出したのが「社会システムが次の社会システムを作る」という考え方である。とても魅力的な発想だといえなくもない。

 社会学者はむつかしい言葉でこのことを表現する。すなわち、このプロセスを「オートポイエーシス」という。ギリシャ語である。日本語では「自己制作」とか「自己創出」などと訳される。「自己言及的システム」というむつかしい表現もある。要するに自分で自分を作り出すシステムということだ。神様がいなくても社会はできることになる。安直な発想にも思えるが、生命自体それに近いシステムであることを考えると何となく納得できる。

 社会学者は生命体、有機体のアナロジーをよく使う。社会有機体説、社会進化論などがそれである。そういうことであれば、人間は有機体をデザインできないのだから「社会システム」はデザインできないという結論になる。しかし、それはおかしい。日本の「医療システム」は1961年に実施された国民皆保険の制度に基づいて出来上がっている。自然、かつ「自己言及的」に出来上がったわけではない。

 世界中の「医療システム」を見てみても国民皆保険制度を持っている国は大多数ではない。アメリカもオバマ大統領がいろいろな反対を押し切って2010年にやっと国民皆保険の医療制度改革を行ったことはご存知のはずだ。このように考えてくると、社会全体としてのシステムはとても複雑すぎてデザインできないが、それよりも少し小さい規模の「社会システム」すなわち、「医療システム」などはデザインできそうである。

 すなわち、「社会システム」はその中に、社会全体よりは小さい「社会システム」があり、その中にもう少し小さい「社会システム」があるという入れ子構造になっている。といってもマトリョーシカ人形のようにひとつずつ入っているのではなく、前回見たように 多種多様な「社会システム」が集まって社会全体を構成しているのである。

 例えば、国の「医療システム」は地域の「医療システム」が集まってできているし、地域の「医療システム」は数多くの「病院システム」や「診療所システム」が中心になってできている。こう考えると、国のレベルの「医療システム」は社会全体よりは小さいからデザインできるのではないだろうか。

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