起業家は本当に「リスクをいとわない」人種
なのか?

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本誌2013年8月号の特集に合わせ、HBR.ORGから“起業の心得”をテーマに精選した記事をお届けする。第8回は、起業家にとってのリスクとは何かを論じる。リスクを好んで受け入れるほど自分は果敢ではない、と後ろ向きに考える必要はまったくなく、ただ自分に正直であれ、という提言だ。


 一般的に、起業家とは普通の人よりもすすんでリスクを取る人種である、と考えられている。本当にそうなのだろうか。30年近くにわたり大企業や起業家たちと仕事をしてきた私は、常々疑問に思っていた。そしてある理論を打ち立てるに至った。ただし、これは実験や検証によって裏づけられたものではなく、私が実体験を通して得た経験則や直観的データによるものである。たとえば、アーリーステージ専門のベンチャー投資家として起業家たちと接してきた12年間や、大企業(ベル研究所とAT&T)の社員として数十億ドル規模の多国籍企業にコンサルティングを行ってきた19年間、メンターとして起業家を支援してきた10年間、そしてAT&Tで社内ベンチャーを立ち上げた経験などがある。

 私の理論とは、こうである――起業家の多くは、その他の人々よりもリスクを好むというわけではない。リスクに対する考え方が異なるだけなのだ。

 私が出会った起業家のなかには、保証された収入や手当を失うことよりも、自分の運命を自主的にコントロールできなくなることのほうが、ずっとリスクが高いと考える人たちがいた。他人の経営する会社に勤め上司の下につき、よくわからない規則に従って生きるほうが、自分でビジネスを立ち上げるよりもはるかに代償が大きいということだ。自分の情熱を追い求めないこと、意味のある大きなインパクトを周りに与えないことのほうが、起業の何倍ものリスクだと感じているのだ。

 彼らにとってのリスクとは、形ある何か(収入、手当、資産)を失うことではない。形のないもの――とめどない情熱、使命感、好奇心、自己実現などを追求できないことがリスクである。

この違いは、「結果」よりも「成果」を重視するという姿勢から生じている。 「結果」(たとえば製品や利益など)は必要であり歓迎すべきものだが、それは大きな「成果」を生んでこそ最も意味を成す。たとえば、慢性的な痛みの緩和、オリンピック選手用の義足の製作、時間のかかる作業を効率化するアプリの開発などである。私と仕事をした起業家の多くは、自分の信じる成果のためであれば、喜んで多少の結果を犠牲にする人たちであった。

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今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー