起業家ならではの、突出した弱点

本誌2013年8月号の特集に合わせ、HBR.ORGから“起業の心得”をテーマに精選した記事をお届けする。前回の記事では起業家に特有の強みを紹介したが、同じ調査からは起業家が明らかに劣っている能力も明らかになったという。「自分の弱みを把握して、他人の強みと組み合わせる」――これが起業を目指すチームづくりの極意なのかもしれない。


 起業家には個性的な人々が多いが、その行動様式には共通するパターンが見られる。前回の記事でお伝えしたように、当社(ターゲット・トレーニング・インターナショナル)が実施した調査の結果から、シリアル・アントレプレナー(起業を繰り返す起業家)の多くが他に秀でている資質が明らかとなった――人を説得する能力、リーダーシップ、責任能力、目標達成への意欲、そして対人能力である。しかし、同じ調査を通じて、彼らには特定のスキルが欠けていることも明らかとなった。

 この調査ではシリアル・アントレプレナーを調査対象として、仕事に関連する23の実践的な個人スキルの熟練度を評価し、その結果を17000名の対照群と比較した。評価には、当該スキルが「非常に高い」「高い」「普通」「未熟」というスケールを用いた。

 これらのデータの解析結果から、ほとんどの起業家には4つのスキルが目立って欠けていることがわかった――そのうち3つは統計的に有意であり、残る1つも突出していた。統計的優位性は、起業家が最も高い点数をつけたスキル(前回の記事で述べた5つのスキル)と最も低い点数をつけたスキルを比較することで算出している。


共感力は、シリアル・アントレプレナーに最も欠けている能力のひとつである。起業家は人々のために何かをつくり上げたり問題を解決したりするが、調査結果によれば、それは投資へのリターンを期待しての行動のようだ。誰かの役に立つ製品やサービスを生み出したいと望む彼らは、理性の面では高い共感力を持っているといえるかもしれない。しかし、これは多くの場合、自分が費やす時間と労力に対する見返りを受け取るインセンティブと結びついている。一般的に、共感力が本当に高い人は見返りを期待しない。

 起業家マインドを持つ人は、自己管理や時間管理には長けていない。多くの職場では、個人的な日常業務の管理に煩わされると、より大きな全社的目標を達成する妨げとなってしまう場合がある。これは起業家にとって致命的だ。彼らは多数のプロジェクトを同時に進めていることが多いので、個々を細かく管理している時間はなく、その助けを必要としている。日常業務の管理に秀でた人物を採用して任せるほうがよい。

 このことは、計画性と整理能力の欠如にも結びついている。タスクや会議のお膳立てに毎回時間を費やしていたら、他のことをする余裕がなくなってしまう。これも誰かを雇い、カレンダー管理、会議やイベントの調整、オフィスの整頓、スケジュール管理などを任せることが有効となるだろう。

分析的問題解決においても、起業家は対照群より劣っていた。起業家は功利的動機(将来の利益、金銭的リターン、新しい製品やアイデアを源泉とする動機)が強いため、素早い意思決定を重視することが多い。意思決定プロセスにおいて切迫感を抱いているため、データを集めて分析するだけの時間は持ち合わせていない。起業家は数字を邪魔なものと見なす場合があるが、これは妥当といえるだろう。彼らに持ち込まれたアイデアのうち、成功しなかったものはどれもデータと理論のみを拠り所としていたという。マーティン・ルーサー・キング牧師は「私には夢がある」と言ったが、「私には計画と戦略がある」とは言わなかった。起業家はビジョンを持っているが、一方で実行可能な戦略を立て実行に移すための人材も雇わなくてはならない。

 起業家マインドを持つ人は、優れたリーダーシップやアイデアにつながる固有のスキルセットを持っている。しかし、彼らが習熟していないスキルも同じくらい重要かもしれない。それらの弱点を理解することで、その分野に秀でた人材を自分の周りに置いて補うことができる。他人の強みを把握して、自分の弱みと組み合わせる――これがリーダーにとって、その壮大なビジョンを実行に移し目標を達成するためのチームを築くカギとなるのだ。


HBR.ORG原文:The Skills Most Entrepreneurs Lack April 1, 2013

 

ビル・J・ボンステッター(Bill J. Bonnstetter)
ターゲット・トレーニング・インターナショナル会長 

今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー