DeNAを辞めて起業するとは思っていなかったのに、なぜ学習サービスQuipperをはじめたか

1

連載3回目は、いよいよDeNAを辞めて渡辺氏がQuipperを設立した動機について。世界の教育を変えるという崇高な理念があったのか?それとも事業オタクの血が騒いだのか?

 

 最初からネットベンチャーの起業を考えていたわけではない。

 むしろ、DeNAでの12年間でネットベンチャーの大変さや難しさ、そしてスリルに満ちた面白さを味わい尽くせたと思っていたし、すでにネットビジネスに対して「お腹いっぱい」だった。

 自分の次のキャリアとして目指そうかと思っていたのは、メアリー・ミーカーのような凄腕アナリストか、マイケル・ルイスのような辣腕ノンフィクションライターのような姿である(目指すのは自由だ)。何かのはずみで起業するとしてもリアルな小売や飲食だと思っていた。

渡辺 雅之
(わたなべ まさゆき)

京都大学在学中から発展途上国20数カ国を渡り歩き、難民支援NPOに住み込みで長期インターンをするなど経済格差や教育問題に強い関心を持つ。卒業後マッキンゼーに入社。1999年に同僚の南場・川田によるDeNA創業に参加し、以来一貫して事業戦略、マーケティング、新規ビジネスを担当。2010年に退職し渡英。ロンドンで学習プラットフォームサービス『Quipper』を創業しCEOを務める

 それが2年半前にロンドンでモバイル学習プラットフォーム『Quipper』を創業し、以来、目が回るほど忙しく過ごしている。どうして、こんなことになってしまったのか。今回はその辺りを振り返ってみたい。

 学習は重要だ。受験や資格勉強に留まらず、たとえば農業で二期作や二毛作のやり方を知っているかどうかで収穫高は違う。上手な料理や掃除の仕方がわかれば生活の質は上がるし、英語を話せれば活躍の場は広がる。学習の重要性や必要性は、議論を待たない。

 そして、デジタル(ネット)と学習は、決定的に相性がよい。近い将来、多くの人にとってよい教育はネットを経由したものになるのは確実である。先生と生徒が顔を突きあわせる迫力こそないものの、従来の紙や本、教室での物理的な学習に対して、デジタル学習の方が本質的に優れている部分が多いからだ。

 まず何より、どこからでも安価に利用できる。ネット配信による流通コストの削減もあるが、それよりも人件費分が大きい。極端な話、最高の教え手1人が授業や教材を全部丸ごとネットで公開配信すれば、質問対応などの個別対応が必要な部分を除き、その領域で他の教え手は必要なくなる。

 また双方向性により、個々人の学習内容や分量をカスタマイズできる。多くの場合、学習をつまらなくするのは難易度など学習者とコンテンツのミスマッチだ。教室や出版物では物理的に難しい個別性が高い学習を、デジタルはいとも容易に可能にする。

1
今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー