360度評価の落とし穴

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「経営思想家トップ50」の第8位に選ばれたマーカス・バッキンガムは、個人の強みを磨くことでリーダーシップ能力を高める技法を開発している。彼は360度評価(同僚、上司、部下など周囲からのフィードバックをもとにした評価)に異を唱えるひとりだ。その問題点は、客観性の欠如にあるという。


 360度評価が有益であることは、認めたい。私の研究や他の多くの研究によれば、卓越したマネジャーやリーダーは、自分の長所と短所を把握しており、長所を活かすことで短所を補っている。そして、いまや至る所で行われている360度評価――現実を把握する最後の手段――は、自己認識を高めるための強力なツールになりうる。

マーカス・バッキンガム
(Marcus Buckingham)

強みに基づく技術やプログラムを開発する企業、TMBCの創業者。

 それでも私は、360度調査はごく一部の例外を除けば、ひいき目に見てもまったくの時間の無駄であり、最悪の場合、個人と組織の両方に大きな悪影響を与えると考えている。いますぐ全面的に廃止したほうが、組織にとっては好ましいだろう。

 私が問題だと考えるのは、リーダーに対するフィードバックの質ではない。それどころか私は、何人かの素晴らしいコーチが360度評価の結果を用いて、洞察に富み実際に役立つフィードバック・セッションを行うのを見てきた。ほとんどの360度評価は主に、リーダーが考えている自身の強みと、他者が考えているそのリーダーの強みとのギャップに焦点を当てているが、この点を問題視しているわけでもない。応用心理学の多くの研究によれば、自己評価が他者の評価に近い人々は、臨床的に鬱状態にある(卓越したリーダーは、常に自分に対するスコアが高めで、これは「寛大なゆがみ(benevolent distortion)」と呼ばれる)。さらに言えば、私はほとんどの360度評価が不合理な推論に基づいていることも気にしてはいない。つまり、模範的なリーダーたちを集めた特定の集団は、360度評価によって測定されるあらゆる能力を持っているため、その集団に属する個人も、すべてを備えた最高の人材とされてしまう。

 いや、360度評価に対する私の不満は、もっと基本的で根本的なもの――データそのもの――にある。360度評価によって生じたデータは不適切なものだ。常にである。データが不適切なのだから、あなたが部下によかれと思ってコーチングを行ったとしても、フィードバックが洞察に富むものであっても、リーダーシップに関する基準が厳密であっても、結局はリーダーたちを道に迷わせてしまうだろう。

「不適切」とはどういう意味か。あなたが参加した前回の360度評価について考えてみよう。手元にあるなら、引き出しから取り出して眺めてみよう。あらゆる360度評価は、実質的には同じように行われる。一連の能力を測定するために、それらがいくつかの行動に分けて示され、社内のさまざまな人々――同僚、上司、直属の部下など――がこれらの行動に関してあなたを評価する。たとえばリーダーシップ能力である「ビジョン」を測定するため、評価者は行動を表した設問――「マーカスは私たちのチームに対して明確なビジョンを設定している」、「マーカスは、私たちのチームが全社的なビジョンをどれほど実現しているかを示してくれる」――に点数をつける。

「ビジョン」のような複雑な能力を具体的な行動に落とし込み評価することは、一見理に適っているように見える。しかし、少し掘り下げれば、そうすることで評価自体が損なわれることに気づくだろう。

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