【名著拝見】『ブルー・オーシャン戦略』
第1章 ブルー・オーシャンを生み出す(その1)

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「最も影響力のある経営思想家」トップ50人を隔年で選出する「Thinkers50」。いわば「経営思想界のアカデミー賞」とも言われる本ランキングの第2位は、本サイトで先週お伝えした通り、「ブルー・オーシャン戦略」で一世を風靡したW.チャン・キムとレネ・モボルニュだった。世界のビジネス界に注目されたベストセラー『ブルー・オーシャン戦略』の第1章を、本日から5回にわたって特別に紹介する。

 

ブルー・オーシャンを生み出す

(左)W・チャン・キム
  (W. Chan Kim)

INSEADのボストン・コンサルティング・グループ・ブルース・D・ヘンダーソン寄付講座教授

(右)レネ・モボルニュ
  (Renée Mauborgne )

INSEADの特別フェロー兼教授

 ギー・ラリベーテはアコーディオン奏者、竹馬乗り、火食い術師などを経て、今日ではカナダが世界に誇るパフォーマンス集団シルク・ドゥ・ソレイユのCEO(最高経営責任者)の座にある。ストリート・パフォーマーたちによって1984年に設立されたシルク・ドゥ・ソレイユ(以下シルク)。その公演は今日までに世界90都市の4000万人近くもの人々を魅了してきた。シルクは、世界のサーカス業界に君臨するリングリング・ブラザーズ&バーナム&ベイリー・サーカスが100年以上をかけてようやく到達した売上高を、わずか20年足らずで達成したのである。

 実に目覚ましい成長ぶりだが、なぜこの偉業が真に輝いているのかといえば、旨みの大きそうな業界ではなく、斜陽産業で成し遂げられたからである。事実、従来の戦略分析によれば、この業界は成長の余地は小さいとみなされていた。サプライヤー、すなわち花形パフォーマーも、買い手も、ともに大きな力を持っていた。都会でのライブ・エンターテイメント、スポーツ・イベント、家庭での娯楽など、多彩な娯楽形態も存在感を増しており、子どもたちは各地を旅するサーカスよりも、〈プレイステーション〉に心を躍らせた。これらの影響もあって、サーカス業界は観客の減少に歯止めがかからず、ひいては売上と利益も下り坂だった。これに追い討ちをかけるようにして、サーカスに動物を使うことに対して動物愛護団体からの反発が強まっていた。リングリング・ブラザーズ&バーナム&ベイリーの取組みが業界の標準となり、これと競合する小ぶりのサーカスもおおむね興行の規模を縮小した。競争に着目した戦略観のもとでは、サーカス業界は旨みに乏しかったのである。

 シルク・ドゥ・ソレイユの繁栄にはもう1つ、目を見張る点がある。サーカス業界はそれまで、子どもを主な観客として想定していたのだが、シルクはすでに縮小していたこの業界でほかのサーカスの顧客を奪ったわけではない。リングリング・ブラザーズ&バーナム&ベイリーに戦いを挑んだわけではなく、むしろ競争者のいない新しい市場を創造して、競争を無意味にしたのである。シルクは、大人や法人というまったく新しい顧客層を惹きつけた。これらの顧客は、従来のサーカスの何倍にものぼる価格を支払って、かつてない新しい娯楽経験を得ようとした。シルクが旗揚げした当初の興行タイトルには、「サーカスの再発明」というものもあったほどだ。

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