全員がイノベーションの担い手になるべきか

「いまこそ社員一丸となってイノベーションを興そう」。こんな掛け声があがるほど、企業はイノベーションを求めている。しかし、そもそも企業活動の大半は、イノベーションとは正反対の活動を求められているのではないか。その事実を確認することが重要だ。


 最新号の『破壊的イノベーション』を編集しながら考えたのは、企業の中で誰がイノベーションの担い手になるかということです。

 楠木建先生も本誌で主張されておられるように、イノベーションは非連続な進歩です。従来の延長線上の改善とは、質的にまったく異なるものです。いわば過去からの改善の系譜を否定するかのような思考が必要になります。

 このようなプロセスを企業の中から生み出すのは誠に困難です。企業という組織の目的として、ゴーイング・コンサーン、すなわち事業を継続して提供していくことは非常に大きな意味があります。どれほどよい製品やサービスも継続して提供されなければ、社会の向上につながりません。一時の祭りやイベントを生み出すことは、本来の企業活動から見ると、二次的活動となります。

 継続して事業を続けていくために必要なのが、オペレーションの仕組みづくりと効率化です。鉄道会社は、単に電車を走らせることに価値があるのではなく、毎日、時刻表に沿って安全に電車を運行させられるからこそ、人々の生活に膨大な価値をもたらしているのです。

 飛行機のパイロットに、新しい操行にチャレンジしてみてほしいと思う乗客はいないでしょう。決められたことを決められたように実行してもらいたい。企業活動の多くの部分でこのようなことが求められます。毎日同じことを同じように提供する。一見、地味で面白みのない行為に見えますが、実はこれが企業活動の社会的価値なのです。

 もちろん、それだけやっていれば企業はいいのではありません。だからこそ、イノベーションが叫ばれるのですが、企業の現実として日々のオペレーション管理に、相当の労力とリソースと意識をかけていることは紛れもありません。

 このような期待を背負う企業という組織が、成功するかもわからず、不確定要素も不確実要素も高い、不連続の事業を開発する。これはオペレーションの考えとは正反対なのです。同じ組織で正反対の行動原理で動くことはできるのでしょうか。会社全体で新しい事業をつくるために「社員全員でイノベーションを興そう」との掛け声が果たして正しいものでしょうか。

 まずはオペレーションとイノベーションは思考が正反対であることを、すべての社員が正しく理解することがスタートになります。自分の仕事のどの部分がオペレーションで、どの部分が挑戦してみる分野か。また、自分の部署はオペレーションを担う部署なのか、新機軸を見つける部署なのか。それらミッションが異なる組織であることをお互いが理解し、別の原理で動き別の物差しで評価しなければ、どちらの活動も中途半端なものになってしまうでしょう。

 オペレーションとイノベーションは相反する概念ですが、両者の価値と行動原理の違いがわかっていれば、この2つを共存される仕組みづくりは可能ではないでしょうか。(編集長・岩佐文夫)
 

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