挫折を味わっている人に、
励ましより大切なものは

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失敗や挫折を味わっている人に、どう向き合い接するか――これは日常生活での対人関係を左右するだけでなく、組織でのマネジメント、イノベーション、リーダーシップにも関わる問題だ。「失敗からの学習」を促す前に、まずは相手の感情に目を向けるべきであるとブレグマンは言う。


 ある土曜日、妻エリナーと私が友人宅を訪ねていた時のこと。友人たちの9歳になる娘のデナが、家に帰ってきた。彼女はいまにも泣きだしそうな顔で、なんとか平静を保とうと努力している様子だ。

「まぁ、どうしたの。水泳大会で何かあったの?」デナの母が尋ねた。

 デナは水泳が得意だ。練習には一生懸命で、ほぼ毎朝6時から練習を開始し、さらに午後泳ぐ日もある。その努力の甲斐あって、大会では優勝を重ね、所属する水泳チームの点数も稼いでいる。大会で勝つことは彼女にとって大切だ。

 あらゆることが水泳ほど得意なわけではない。学校では苦手な教科もある。ほかの子どもたちに追いつくために算数の宿題は多めにやるし、リーディングの課題では助けを必要とする。でも、彼女はいつも頑張っている。

「失格になった」――デナは言った。泳ぎは問題なかったのだが、スタート合図のピストルが鳴るほんの一瞬前に飛び込んでしまったそうだ。フライングである。

 一同は玄関前の踊り場にいた。デナは水泳バッグを肩にかけたまま、階段の一番下に腰を下ろし、感情のない目を宙に向けた。

 デナの父が話しかけた。「あのさ、デナ。今シーズンはまだたくさん水泳大会があるじゃないか。まだチャンスはあるぞ」

 私も声をかけた。「一瞬早く飛び込んだってことは、きみのコンディションは最高だったってことだよ。1000分の1秒でも無駄にしないように、迷わず動けたんだから。それは本能的には正しいことだよ。今回はタイミングが外れたけど、いいんだ。何度も繰り返すうちに、きっとうまくなるから」

「どんなチームの、どの水泳選手でも一度は必ず失格の経験があるのよ」エリナーが言った。「スポーツにはつきものなの」

「次の大会までには、コーチがスタートの練習を手伝ってくれるはずね」母が言う。「それでスタート台を蹴る完璧なタイミングをつかめるでしょう。そうすれば1秒も無駄にしないで、フライングもしないで飛び込めるようになるわ。あなたなら、必ずできる」

 私たちの言葉はどれも、デナの心には響かないようだ。その無表情は変わらない。もうお手上げだった。

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