専門家になればなるほど
顧客が見えなくなる

本誌最新号で、楠木建教授は、イノベーションの秘訣は「がんばらないこと」と主張される。この場合の「がんばる」の反対語は何のか?がんばることより、がんばらないことの方が難しい。ここにイノベーションのヒントがあるようだ。


 弊誌の最新号は「破壊的イノベーション」の特集です。

 編集中、たえず考えていたのは、なぜ業界に精通すると業界の問題が見えなくなってしまうのか、ということです。

 よい仕事をするにはその仕事に精通すること。これに疑問をはさむ人はいないでしょう。新入社員が仕事をうまくできないのも、仕事に関する知識や経験がゼロに近いがためであり、新入社員から見れば中堅社員の仕事ぶりが神業に見えるようなことがあります。それだけ経験で培ったものは奥深いものです。

 その一方で経験がないことが、かえってアイデアを生むことも多いです。弊社の歴史的ベストセラー書籍『もしドラ』を生み出したのは、それまでドラッカー本と無縁の編集者でした。言い尽くされた話しですが、音楽業界を一新したアップルの故スティーズ・ジョブズも業界の素人です。音楽を愛する人を消費者としてきた人からiPodは生まれませんでした。

 仕事に精通しかつ玄人に成りきらないこと。この絶妙なバランスはどのようにしたら保ことができるのでしょうか。

 今号で執筆してくださった一橋大学大学院の楠木建先生は、イノベーションを興すには「がんばらないこと」と主張されます。イノベーションを興そうと努力することが阻害要因になるという矛盾を指摘されておられます。得てして「がんばる」ことより「がんばらない」ことの方が意識して実践するのが難しいものです。また「がんばる」の反対語は、「いい加減」「手抜き」などが出てきますが、楠木先生の言わんとする概念ではなさそうです。では何なんでしょうか。

 この視点は「精通しても玄人にならない」と相通じるように思えてなりません。とことん精通するということは、従来の常識や業界の常識を熟知していくことではなく、むしろそれらをゼロベースで疑うことかもしれません。日々遭遇する慣習や常識に対し、日々疑い続けることができるかが決め手でしょう。とはいえ、これでも「がんばる」煩悩が見え隠れしていますね。(編集長・岩佐文夫)
 

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