「リサーチ・デザインの罠」

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企業や地域の強みが弱みに転じ、弱みが強みに転じていく。前回確認したように、このような市場という場での企業活動を導くには、単にマーケティングに用いるデータや手法を増やすだけではなく、その背後にある顧客の行動や思考を読み解く解釈が重要となります。今回は、この解釈のフェイズにおいて、理論が果たす役割を振り返ってみたいと思います。

エクササイズ~マーケティングの重点をどこに置く?

 下のグラフはある消費者アンケートの結果です。もし皆さんがスイーツ店の経営者だったら、このデータを見てどのようなアクションをとるでしょうか。アンケートの結果を見ると、消費者がケーキを買うときに重視しているのは味や価格のようです。やはり食べ物を売る以上、パッケージデザインのような見た目よりも、味や価格などの実質的な課題に力を入れるべきだと考えたくなるのではないでしょうか。

 しかし、この解釈には落とし穴があります。それは、アンケートの各項目は独立した要因だと仮定してしまっていることです。独立した要因とは、この各項目が相互に無関係に消費者の購買意思決定に影響するということです。つまり、この解釈では、「パッケージデザインが味の評価に影響をおよぼす」という因果関係を想定の外に置いてしまっているのです。

 考えてみると、よいレストランや割烹店では、盛りつけや器にも細心の注意が払われています。なぜでしょうか。それは、味覚は舌の上だけの問題ではなく、見た目によっても影響されるからです。この視角が味覚におよぼす影響は、心理学実験でも検証されており、私たちがケーキを対象に行った追試でも、同様の影響が確認されています(栗木契著『マーケティング・コンセプトを問いなおす』有斐閣)。

 このように、スイーツ店のマーケティングにおいて、「おいしさや味」は重要な問題なのですが、それはパッケージやディスプレイのデザインの影響を強く受ける問題でもあるわけです。自店のケーキを味わう人に、「おいしい」と感じてもらうためには、パッケージデザインも吟味しならない。この関係をよく理解している経営者やマーケティング担当者は、先のアンケートの結果を見て、デザインを軽視するどころか、逆に重視するのです。

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