「データ武装の罠」

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企業や地域の強みが弱みに転じ、弱みが強みに転じていく。企業のマーケティング担当者や地域のリーダーがこのプロセスを導くには、顧客との多面的な対話が欠かせません。その実践に取り組もうとする多くの企業や地域が、より多くの顧客データを収集し、データ武装を強化しようとするのは自然な成り行きです。

顧客の行動や思考を読み解こうとする姿勢

 アンケート調査や購買データ分析による仮説検証。SNSデータ解析や行動観察による仮説発見。マーケティングに用いられるデータの量や種類、そして分析や検証の手法は増える一方です。こうしたデータ武装は、企業や地域が、思い込みや、備えの怠りによって、マーケティング活動を迷走させてしまうことの防止につながります。

 とはいえ、データの量や種類、そして分析や検証の手法を増やすことは、マーケティングの手段の1つであって、それだけで万全の備えとなるわけではありません。加えて、企業のマーケティング担当者や地域のリーダーは、その背後にある顧客の行動や思考を読み解く努力を欠かさないようにしなければなりません。

 今回は、私たちの研究事例のなかから、長期の利用者の減少に歯止めをかけ、再拡大に成功した、「はとバス」の定期観光バス事業の事例、そして新しい液体洗剤の市場導入に成功した、「花王アタックNeo」の事例を振り返ります。これらの2つの事例では、データを踏まえた顧客の行動や思考の解読がどのように行われていたのでしょうか。この問題を検討した上で、今回は、マーケティングの実践で生じる思考の罠の第4弾として、解釈を掘り下げる努力を忘れたデータ武装の危うさを指摘します。

はとバスの新機軸

 はとバスの定期観光バス事業は、利用者の減少が止まらず、赤字経営に陥っていました。かつて120万人を超えていたこともあったその利用者は、1990年代には60~70万人にまで減少してしまっていたのです。

 2000年代には、1990年代の終盤からの取り組みが実を結び、はとバスは会社全体としては赤字経営から脱却していました。しかし、はとバスの主力事業である定期観光バス事業については依然として赤字であり、利用者は50万人程度にまで減少していました。はとバスだけではありません。京都や大阪や横浜など、各都市の定期観光バス事業も同じような問題に直面していました。

 このような背景のもとで、はとバスは2005年に、定期観光バス事業のマーケティング改革をスタートしました。商品企画、プロモーション、営業、予約運行管理、等々を見直したことにより、利用者は増加に転じ、2009年にははとバスの観光バス事業は念願の黒字化を果たします。

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