企業変革の2つのモード(その3)
戦略転換はほとんど不可能なまでに難しい

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 拙著『ストーリーとしての競争戦略』をお読みいただいた方からよくいただく質問にこういうものがある。「優れた戦略がストーリーになっているということはわかった。それにしても、ひとたび確立した戦略ストーリーを変革して、新しいものにすることは可能なのか。可能だとしたら、どうやったら変革できるのか」。

 この質問に対する僕の答えは「もしいまの時点で既存の戦略ストーリーが(いろいろな問題やほころびをみせているにしても)そこそこの業績を維持しているとしたら、戦略転換はほとんど不可能といっていいほど困難」である。ここでいう「そこそこの業績」というのは、「ひところと比べてだいぶ業績が落ち込んできたな。何とかしなければ……」と全員が思ってはいるが、「いまのところはまだ『にっちもさっちもどうにもこうにもブルドッグ』(←昭和の名フレーズ)状態にはなっていないな……」という感覚が会社を支配している状態を意味している。

 戦略がストーリーになっているということは、言い換えれば、個別の構成要素で勝負しようとしていない、ということだ。これまでもこの連載で強調してきたように、特定少数の必殺技や飛び道具に頼っているうちは、戦略は本物ではない。構成要素を時間軸の上につなげていく。つながりで差別化する。その一貫性が競争優位をもたらす。そこに戦略ストーリーの妙味がある。

 戦略ストーリーの核心が一貫性にあるということは、優れた戦略ほど路線転換が難しくなるということを示唆している。既存の戦略ストーリーの横展開や拡張や延命、こうしたことであれば、(容易ではないにしても)十分に可能だ。この辺、詳しくは拙著を読んでいただきたいのだが、横展開や支線への枝葉の拡張の余地が大きいことは、そのまま優れた戦略ストーリーの条件であるともいえる。優れた戦略ほど進化が期待できる。

 しかし、戦略転換となると話は真逆、180度変わってくる。戦略転換とは「ストーリー丸ごとの書き換え」である。一貫性に優れたストーリーほど、個別の構成要素が強力な因果論理でつながっているので、丸ごと書き換えるのが困難になる。いくつか新しい手を打ったとしても、既存の因果論理の網の目に吸収されてしまう。というか、既存のストーリーにうまく乗っかるアクションでないと打てなくなる。もっといえば、ストーリーがしっかりしていれば、そうしたアクションしかそもそも思いつかなくなるのが成り行きだ。

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