企業変革の2つのモード(その2)
リポジショニングと能力再構築

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 以前もこの連載で話したことだが、戦略論には大別して2つの流派というか考え方がある。ひとつは「ポジショニング」、もうひとつが「能力」(capability)だ。この2つの流派はさまざまな次元で対照的であり、それぞれに戦略思考の包括的な視座になっている。

 ポジショニングの戦略論は「トレードオフ」の論理を重視する。利用可能な資源は限られている。全部を同時に達成できるわけではない。だから何をやって、何をやらないかをはっきりと見極めることが大切になる。「これで勝つ」というのをあらかじめ決めておいて、そこに限られた資源を集中的に投入する。だから「どこで勝負するか」という位置取り(ポジショニング)が戦略の焦点になる。

 ポジショニングの戦略論は「アウトサイドイン」の思考であるといってもよい。企業の外には無限の競争空間なり事業機会が広がっている。まずはそうした外的な環境や機会をよく理解する。その上で、もっとも魅力的な立ち位置を見極めようとする。つまり「まず外を広く見る」のがポジショニングの戦略思考だ。

 これに対して、能力の戦略論は「インサイドアウト」の発想に立脚している。その企業を取り巻く外的環境や機会はどうあろうと、他者よりも能力に優れていれば勝てるはずだと考える。ポジショニングは二の次で、まず能力の開発を重視する。時間はかかるにしても、よそが簡単に真似できない能力を構築できれば、競争に勝てる。能力の戦略論のカギを握るのは、「模倣不可能性」という概念だ。戦略の焦点は、そうした他社による模倣が難しい独自の能力を構築していくプロセスの方にある。能力構築のプロセスは企業の外には存在しない。能力構築は企業の中で起きる複雑で微妙なプロセスである。だから、まずは自分の企業の「中をしつこく見る」ということになる。

 この2つの戦略思考では、企業と経営(者)に対する前提が大きく異なる。ポジショニングの戦略論は、企業を意思決定(の結果、選択された活動)の束としてとらえる。いずれの流派にせよ、戦略の本質が「競合他社との違いをつくる」ことには変わらないのだが、意思決定の結果として「やること」で違いをつくろうというのがポジショニングの考え方。そこでの経営者は「何をやり、何をやらないか」をはっきりさせる意思決定者である。

 これに対して、能力の戦略論は、企業を資源の束と考える。企業が保有する多種多様な資源の中に他社が真似できないものがあれば、それが能力として競争優位の源泉となる。つまり内部に「持っているもの」で違いをつくろうとする。経営者の一義的な役割は大きな意思決定を繰り出すことでなく、そうした能力が育つ土壌を耕すことになる。能力の戦略論が想定する経営者は、意思決定者というよりも、能力開発者の色彩が強い。能力開発を直接担うのは組織の中でさまざまな仕事をしている現場の人々であるにしても、能力開発を方向づけ、支援し、促進することが経営者の中心的な仕事となる。

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