ジャレド・ダイアモンド―なぜ世界が見えるのか

『昨日までの世界』の著者に聞く

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2000年に刊行された『銃・病原菌・鉄』は人類の歴史を生物学、言語学など多様な領域から解き明かし、世界的なベストセラーになった。著者ジャレド・ダイアモンド氏の著作活動は衰えず、『文明崩壊』(2005年)に続いて、今年『昨日までの世界――文明の源流と人類の未来』(日本経済新聞出版社)を刊行した。本書では、国家が生まれてからの5000年は600万年におよぶ人類の歴史上、「昨日」に過ぎないとし、有史以前の世界から学ぶ知恵がいまなお生き続けていることを示した。精力的な知的活動と幅広い領域をカバーする知力の源泉は何か。


――最新作『昨日までの世界』を読ませていただきました。今回も生物学から言語学などの広い学問領域から、領土問題や宗教問題などのあらゆる社会問題に切り込んでおられるのに驚きました。このような広い領域をカバーできる秘訣は何でしょうか。

ジャレド・ダイアモンド(以下、ジャレド氏):これは一般論ですが、子どもたちは、多くのことに興味を持ちますね。しかし、年齢を重ねると学校や職場などでさまざまな「やならければならない仕事」を周囲から強制されることが増え、自分の興味や関心に使える時間はどんどん狭まってくるのです。私はその面で恵まれた環境にあり、子どものときから今に至るまで、長年にわたって多くのことに興味を持ち、その追求を続けることのできる環境にあったのです。

――恵まれた環境といいますと?

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ジャレド・ダイアモンド
Jared Diamond
カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部心理学教授を経て、現在は同校地理学教授。 1937年ボストン生まれ。ハーバード大学で生物学、ケンブリッジ大学で生理学を修めるが、やがてその研究領域は進化生物学、鳥類学、人類態学へと発展していく。世界的大ベストセラーとなった『銃・病原菌・鉄』ではピュリツァー賞を受賞。おもな著書に『セックスはなぜ楽しいか』『文明崩壊』などがある。

ジャレド氏:私はある意味でとてもラッキーな境遇にいました。

 まず1つ目は、家庭環境です。私の母親はプロのピアニストでした。ピアノ教師をしており、外国語を話せ、言語学者でもありました。一方、父親は医師であり、科学者でもありました。そんな二人の両親の間に生まれ、家では音楽や理科、言語、読み書きなど、日常的に触れる様々なものに大きな興味を持ちました。『銃・病原菌・鉄』や『文明崩壊』、現在の創作活動のルーツにもなった、鳥類に興味を持ったのもこの頃です。

――多くの子どもたちがそうだったように、ジャレドさんも幼少期にいろいろなことに興味を持たれたわけですね。そのご興味を、その後も持ち続けることができた環境とは。

ジャレド氏:はい。私は多くの興味をその後も追求することができました。アメリカのハーバード大学に進学し生理学を学び、大学院はイギリスのケンブリッジ大学でその研究を専門として追求しました。イギリスの大学では、コースの選択をするときに、絶対に採らなければならない必須科目がアメリカの大学より少なく、自由に専門以外に時間を使うことができたので自由度が高かったのです。私の専門はバイオケミストリ、この時すでに生物化学で非臨床生理学の専門家となっていましたが、そのかたわら、3つの外国語の他、20世紀の歴史、オーラル・ポエトリー(口誦詩)の分野に至るまで、多岐にわたって学びを深めることができました。

 作曲やオルガンの演奏も学び、パイプオルガンに関しては、1日8時間練習するほど夢中になりました。

 このように幼少期の広い興味を、そのまま追求することができたのです。大学院ということもありますが、イギリスに行った時、ほとんどこれをとらなければならないという科目はありませんでした。 それくらい、多くのことができる環境にありました。

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