モチベーションは自分の「物語」から生まれる

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ピーター・ブレグマンはリーダーシップと自己啓発のコンサルタントとして、世界中の大手企業やNPOのリーダー層にアドバイスを行っている。米国の多くのメディアで寄稿者・コメンテーターとして活躍し、リーダーシップと生き方に関する執筆・講演活動を幅広く展開する。誰もが共感できる親しみやすい語り口は、HBRブログでも絶大な人気を誇る。本サイトで第1回に取り上げるのは、モチベーションの源泉について。

 

 マンハッタンのアパートへの帰り道、雨をよけるためにジャケットのフードをきつく締めて歩いていた時のこと。ビルの階段を、歩行器を持った老人が降りようとしているのが見えた。湿って滑りやすくなっている階段を降りるのに苦心している様子だった。彼があやうく転倒しかけたとき、私を含め数人が駆け寄って手を貸した。

 その老人はアクセス・ア・ライド(Access-A-Ride:メトロポリタン交通局の障がい者専用車両)に乗ることになっていたようで、1台のワゴンが待っていた。運転手は温かく快適なワゴンの中にいて、自分の乗客が私たちに支えられて雨に濡れながら歩道を渡るのを眺めていた。

 そして運転手は窓を開け、雨の音に負けない大きな声で言った。「今日は彼、行けそうにないね!」

「ちょっと待って!」と私たちは(その頃には5人もいた)叫んだ。老人を支え、車の後部からまわりこみながら、「大丈夫、彼は行ける」と訴えた。

 私たちのせいで道路がつかえ、渋滞が始まっていた。何度か転びそうになる老人を助け、後ろから支え、ついにドアにたどり着いた。運転手は中からドアを開けて階段を取り付けてくれたが、それは歩行器の老人に上がれるものではなかった。

「サイドドアの電動リフトを使ったらどうかな?」と私は提案した。

「あ、いいですよ。ちょっと待って」運転手はコートを頭にかぶり、私たちのいる雨の中に出てきてリフトを動かし始めた。

 歩行器の老人が無事に乗り込むと、私たちは立ち去ろうとした。すると運転手はふたたび窓を開けて、叫んだ。「手伝ってくれて、ありがとう!」

 さて、ここでひとつ質問をしたい。なぜ、給料をもらっている運転手が車の中で待っていて、5人もの見知らぬ者どうしが、雨の中で見知らぬ男性を助け、電動リフトを使うことまで考えたのだろう?

 運転手は、ただ単に嫌な奴なのか? そうかもしれない。でも私はそうは思わない。リフトを使おうと提案した時、拒否もせず文句も言わず、すぐに外に出て操作してくれたのだ。そして彼は不快な人でもなかった。別れ際にお礼を言った時の彼は、誠実そうに見えた。

 それなら、運転手は車から離れることを禁じられているのだろうか。私はメトロポリタン交通局のウェブサイトをチェックしてみたが、運転手が乗客に手を貸してはならないとする規則は見あたらなかった。反対に、こう記載してあった。「車両が視界に入る範囲内で、車両から30メートル以上離れない限り、運転手は乗客の乗降を補助し、坂道やカーブでも歩行を補助することができます」

 それではなぜ、運転手は手を貸さなかったのか。答えはたぶん、歩行器の老人がもたついてしまうのは今回だけではなく、こうした光景を毎日のように、至るところで目にしているからかもしれない。すっかり慣れてしまったために、行動を起こそうという気が失せてしまっているのだ。

 しかし、この答えではまだ十分ではない。結局のところ、乗客を助けることも彼の仕事なのだから――と、ここまで考えた時に私は突然思いついた。助けなかった理由はまさに、彼が給料をもらっているからではないだろうか。

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