「リスクテイク」の力

新たな挑戦をしたいけれど、失敗が怖いから安定を求めよう――私たちが日々直面するこんな状況に対し、ナイアは「リスクテイク」という概念を提唱し、挑戦を鼓舞してくれる。予期された失敗ならば、肯定してもよいということだ。

 

 以前に投稿したブログ記事The Miracle of Making Mistakes (ミステイクの奇跡)に対する皆さんの活発な反応のおかげで、私はテーマを深く掘り下げ、ミステイクという言葉の解釈を広げ、「リスクテイク」という愉快な造語を生み出した。Notmd、ドーナ、ブレットをはじめ、過去4週間にわたり素晴らしい洞察を寄せてくださったすべての読者に感謝を捧げたい。

 ミステイク(失敗・間違い)とは、論理的思考の欠如、不注意、あるいは知識の不足によって引き起こされる行動または計算である。リスクとは、けがや損失の可能性、あるいは期待と結果が異なる可能性にさらされることである。したがって、ミステイクとリスクを合わせた造語「リスクテイク」は、「間違い」の一種である――ただし、不注意や知識不足によって引き起こされるものではない。可能性が予測され、計算され、容認されたうえでの「間違い」だ。

 簡単なテストで、リスクテイクとミステイクを見分けることができる。こう自問してみてほしい。「失敗する前に自分は失敗の可能性を予期していただろうか? それとも、予期せぬ失敗に驚いただろうか?」私は無分別な行動を促そうとしているのではなく、ドーナが指摘したように、純粋な善意から生じる間違いを促そうとしているのである。

 すべての新会社、新製品、新サービス、そして新発見は、リスクテイクの可能性をはらんでいる。実際、あらゆる戦略的意思決定は単なるリスクテイクであると判明する可能性がある。私たちは通常、七転び八起きの精神に背中を押され、実験する喜びを持ってリスクテイクを行う。ブレットの主張によれば、すべてを「完璧に」行おうとすることは、停滞と怠惰を生む。

 リスクが生じたプロセスに説得力、持続性、規律性があり、知見に基づいたものであるならば、私は諸手を挙げてそのリスクを取るだろう。この世界的不況の最中に、HCLはアクソンの買収を決断した。インドのIT企業による海外企業の買収としては最大規模のものであり、リスクテイクとなる可能性があった。この件については多くの批判が唱えられたが、そうした批判者が「そら見たことか」と言えるような状況はこれまでのところ訪れていない。私は同じことを繰り返すだろうか? 長期的な利益が短期的な損失を上回る可能性さえあれば、当然イエスだ。

 読者のレミュエル・モリソンは、ベスト・プラクティスとなる可能性のあるものを提案してくれた。自分の犯した間違いを記すリストをつくり、定期的に新しいリスクテイクと、そこから学んだことを追加していくのである。私の新著『社員を大切にする会社――5万人と歩んだ企業変革のストーリー』 (邦訳2012年、英治出版)では、HCLが犯したいくつかのリスクテイクについて解説している。たとえば、社員が抱える問題に対処するために新しく立ち上げた「スマート・サービス・デスク」の効果を測定するときに犯したリスクテイクがある。この制度は、スタッフ部門に不満を抱える社員はウェブ上のデスクに特定の当事者に向けた「違反チケット」を投稿し、対象となる当事者が問題を解決する、という仕組みだ。 社員にこの制度の効果を理解してもらい、チケットを切られた当時者の対応を迅速化する必要があった。このため私たちは、問題が解決したチケットの数を成功の指標として数え始めた。それは結果として、仕組みの全体像をゆがめるリスクテイクとなった。苦情が多ければ多いほど、成功の可能性が大きくなってしまうのだ。その後は指標の計算法を改め、今では発行されるチケットがゼロになることをデスクの目標としている。

 無理もない話だが、経営陣は未知なるものを恐れ、快適な領域での安定を求める。たとえそれがありきたりな業績にしかつながらないとしてもだ。しかし昨今の不安定な環境下では、長く快適でいられる場所などない。だからこそ提案したい。私たちはいま、あえて不快で困難な状況に身をさらすべきなのだ。そしてその場所から、目指したい未来への道筋を描くのだ。その過程には無数のリスクテイクが待ち構えている。常にはるか先を見て、くじけずに進むのだ。

 マーク・トゥエインはかつてこう書いた。「今から20年後、君は自分がしたことよりも、自分がしなかったことについて悔やんでいるだろう。だからもやい綱を解き放て。安全な港から出発せよ。貿易風に帆を膨らませ、探検し、夢を見て、発見せよ」

 あなたはリスクテイクの風を受けて出港する準備ができているだろうか。


原文:The Power of "Risktakes" August 18, 2010
 

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