「スモールデータ」でも、
組織の判断力を高めることができる

「ビッグデータ」をめぐる昨今の(当然ともいえる)熱狂のさなか、マネジャーたちが重要な「スモールデータ」の示すメッセージを見逃してしまうのではないか、と私は少々危惧している。特に、以下の3つのポイントを指摘したい。

 1. 成功率を高めるために、大量のデータは必要ない。
 2. 必ずしも、自分自身で分析を行う必要はない。
 3. 組織の最小レベルにおいても、データに基づく意思決定がもたらす利益を享受できる。

 第1のポイントは、私自身にも当てはまる。というのも、経営研究や執筆において、今回初めて、私自身が小規模な企業の事例に焦点を当てたからだ。私がブルック・マンビルと書き進めてきた新著『ジャッジメントコール 決断をめぐる12の物語 』(邦訳は日経BP社、2013年)では、正しい決断、あるいは正しい「組織の判断」と我々が呼ぶ決断を一貫して下す能力を発揮した組織を紹介している。正しい組織の判断とは、ビッグデータかスモールデータかといったデータ論争を意味するのではない。

 私が調査対象とした小規模企業のWGBホームズは、ボストン準郊外に拠点を置く住宅用不動産開発業者である。この企業の課題は、売れない住宅をどうしたらよいかということであった。CEOのグレッグ・バリルはこの問題を解決するうえで、対象となった住宅や市場に詳しい人々に聞き取りを行ったが、ビッグデータをほとんど利用していなかった。私の知る限り、収集したデータを棒グラフにしたり、データの平均値を求めたりさえしていなかった。にもかかわらず、彼が形式にこだわらずに市場の声に耳を傾けたことが、住宅の改修・販売に役立ったことはほとんど疑う余地はない。この事例が第一のポイント、すなわち「成功率を高めるために、大量のデータは必要ない」ということを教えてくれた。

 そして第2のポイント、「必ずしも、自分自身で分析を行う必要はない」ということは次の調査が示してくれた。ボストンを拠点とする大学病院、パートナーズ・ヘルスケアは、テクノロジーを活用し、データから抽出されたナレッジ(知識)を医療業務に組み込むというすばらしい業績を成し遂げた。この大学病院はデータを豊富に持ち合わせ、意思決定においてそれらを活用しようと取り組んでいた。しかし興味深い点は、大部分において、彼ら自身でそれらのデータを収集し分析する必要がなかったということだ。また、患者にとって最善の治療法を決定するために、データ分析を行う世界規模の科学コミュニティーを利用することもできた。パートナーズ・ヘルスケアが構築したのは、しばしば「トランスレーショナル医療」と呼ばれるもので、既存の研究を日常の臨床に取り入れる医療形態である。

 最後に、新著で紹介した別の業界の事例を挙げよう。意思決定の方法を劇的に変えつつある、K-12(初等中等教育:幼稚園から12年生まで)の教育セクターの例である。ノースカロライナ州にあるシャーロット・メクレンバーグ校は、生徒の成績データを積極的に活用するシステムを導入している。データに基づく意思決定を実行する場合に常に見られるように、組織の上層部が重要な役割を担い、当時最高責任者であったピート・ゴーマンが先頭に立って取り組んでいた。しかし私は、この学区の他の学校で働く、やる気を持った現場の人々を訪ね、彼らについても本で紹介している。こうした関係者は、学区での取り組みに先駆け、データに基づく変革を自ら実行しつつあったのだ。たとえば、リーディングに関するデータの分析は、子どもたちの速読力の向上に役立ち、幼稚園におけるリーディング授業の拡充につながった。ここでの教訓は、「組織の最小レベルにおいても、データに基づく意思決定がもたらす利益を享受できる」とういうことである。

 このように、ビッグデータや上層部からの大きな支援がなくとも、自分自身の取り組みで組織の意思決定改善に貢献できるのだ。スモールデータは至る所に存在するため、自分自身の判断力を高めようとしない姿勢に言い訳は通用しない。


原文:Even Small Data Can Improve Your Organization's Judgment March 26, 2012
 

Special Topics PR
今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー