イノベーションで「難易度」はプラスにならない

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難しいことが必ずしもイノベーションにつながるわけではない。むしろ、誰もができなかったほどシンプルにすることがインベーションである。本書では、その観点から、イノベーションにつながるアイデアの条件を紹介する。

 

 先ごろインドで私は、「模倣」を多く取り入れるイノベーション戦略についてどう思うか、と質問された。私はこう答えた。「イノベーションは、オリンピックの飛び込み競技じゃないからね」。

 どういう意味か。飛び込みの選手たちは、2つの要素から得点を獲得する。すなわちパフォーマンスの「難易度」と「完成度」である。ひねりや回転を加えれば、それだけ高得点が得られる。

 イノベーションは、難易度で評価されることはない。どれだけ利益を上げるかによって、得点を得る。もちろん、ときには高いリスクを冒さなければならないこともある。利益を上げる方法がはっきりしない場合だ。だが、目標は必要以上に物事を難しくすることではなく、利益をできるだけ早く低コストで上げる方法を見つけることである。そのために模倣が必要というのであれば、そうすればよい。

 飛び込み競技を引き合いに出したのは、マイケル・ルイスが野球について執筆した『マネー・ボール』(邦訳2006年、武田ランダムハウスジャパン)に敬意を表するためである。この本ではメジャーリーグのオークランド・アスレチックスが、金持ち球団に対抗するために市場の非効率を逆手に取る様が描かれている。本の序盤で、アスレチックスのゼネラル・マネジャーであるビリー・ビーンと、球団のスカウトたちが議論する場面がある。アラバマ大学の捕手ジェレミー・ブラウンを獲りにいくべきか、が話し合いのテーマだ。スカウトたちは、ブラウンは「太りすぎ」「覇気がない」として、評価していなかった。一方、ビーンを支える分析チームは彼の実績をいくつか指摘して、高く評価していた。話し合いは延々と続き、ついにビーンはこう言って議論を打ち切った。「我々はこの球団で、ジーンズを売っているわけじゃあない」。これがビーンの持つ理念を簡潔に表している。そしてブラウン捕手は、アマチュア選手全体でドラフト35位で指名されることとなった。

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