落日のOJT
「神話」を捨て去るときが来た

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人造りは大切にされているのか

「人は城 人は石垣 人は堀 情けは味方 仇は敵なり」という句がある。甲州武田氏に伝わる『甲陽軍鑑』(品第三十九)には、信玄公が歌ったものとあるが、真偽は定かではない。

 戦の定石では、まず強固な城造りが勝ち負けを決すると考えるものだが、そうではなく、人こそが城であり、石垣であり、堀となる。戦の要諦は城造りではなく、人造りにあるというのが、武田氏の訓えだ。これが人事専門家の心をくすぐる。しかし、戦国時代と現代とでは、文字どおり「粉骨砕身」(骨を粉にし身を砕く)する人材を育てる厳しさが違う。

 創業者・松下幸之助の考え方である「ものをつくる前に人をつくる会社である」ことを実践してきたパナソニック。そのパナソニックでさえ、本社機能の一部をシンガポールに移し、傘下の三洋電機の一部をハイアールに売却しなければならないご時世である。企業を取り巻く外部環境が激変し、人を大切にしてきた企業でさえ、それが許されなくなっている。

 思えば、バブル期にはいろいろなことにお金が使われた。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされ、自信をつけた日本企業は、海外投資を積極的に行い、ジャパンマネーが世界を席巻した。

 たとえば、1987年に安田火災海上保険(現損害保険ジャパン)がゴッホの「ひまわり」を落札したこと(約58億円)に始まり、89年には三菱地所によるロックフェラー・センター買収(約2200億円)、ソニーによるコロンビア・ピクチャーズ買収(約5000億円)、90年のコスモワールドグループによるペブルビーチ・ゴルフリンクス買収(約1250億円)など、ドラマのように華々しい買収劇があった。その時代を懐かしみ、記憶に留めている人も少なくない。

 その一方で、短期収益の見えにくい教育や人材育成には、なかなかお金が回っていかなかった。日本の競争力が高く、余力のあったバブル期には、今のようなグローバル時代を見すえて、海外で活躍できる人材の育成に、もっともっとお金を使っておけばよかっただろう。当時、大学などに企業が資金を提供する例は少なかったし、海外で教育を受けた人材を採用することにも積極的ではなかった。せいぜい企業が積極的に行ってきたことといえば、ハーバードやウォートンなどの憧れのMBAプログラムに、社員を留学させることくらいだった。

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