『ストーリーとしての競争戦略』への批判について思うこと

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 幸いにも拙著『ストーリーとしての競争戦略』は多くの方に読んでいただきました。当然のことながら、数多くの批判の声が届きます。日々届く批判を読んでいると、面白いことに気づきます。僕の本に対する批判はだいたい4つのパターンに分類されます。

 第一は、「『ストーリー戦略』ということで買って読んでみたのに、どうもそうじゃないじゃないか」という批判。僕に言わせれば、これは誤解です。「ストーリー戦略」という、ようするに「ブルーオーシャン戦略」とか「ホワイトスペース戦略」、ほかにもこれまでたくさんありましたが、そういう新しい「戦略論のサブカテゴリー」を提示する本だと誤解されているのです。もちろんこうしたそれぞれの「新しい戦略論」には有用なアイデアを含んだものがたくさんあります。「ブルーオーシャン戦略」などはとても秀逸な切り口だと思います。

「ストーリー戦略」という誤解の背後には、「新しい戦略論」に対するニーズが読者の間で強いという事情があるような気がします。「これまでの戦略論はもう古い。これからは『ストーリー戦略』だよ!」というようなノリですね。

 そうした向きには残念ですが、本書は「新しい戦略論」を提示しようとしたものではありません。「ブルーオーシャン」であろうと(いまでは「グリーンオーシャン戦略」というのも提唱されています)、「ホワイトスペース」(そのうち「ブラックスペース戦略」が出てくるかもしれません)であろうと、あらゆる競争の戦略は「ストーリー」という思考様式をもってつくられるべきだというのが僕の言いたかったことです。つまり、『ストーリーとしての競争戦略』は「ストーリー戦略」ではなくて「戦略ストーリー」についての本だというのが僕のスタンスです。

 第二に、「ストーリーテリングの話だと思ったのに…」という批判。これも誤解です。ストーリーテリングというのは、物語仕立てでコミュニケーションしたりプレゼンテーションしたほうが、理解しやすいし伝わりやすいという、ある種の「技法」を意味しています。後の話とも関連しますが、そもそも戦略づくりには有効な「技法」などないというのが僕の見解です。

 第三に、「当たり前の話ばかりじゃないか」という批判。これは大正解。おっしゃるとおりです。この本には当たり前のことしか書いてありません。競争戦略とは、ありていに言って「商売」の話です。「競争の中でどうやって儲けるの?」という話です。太古の昔から、普通の人が普通の人に対して普通に真剣に取り組んできたというのが商売の歴史です。

 自然科学の世界には、「ニュートリノ発見!」というように、だれもが知らなかった大発見というのが(ごくまれに)あります。ところが、僕が問題にしているのは人の世の商売なのです。「日の下に新しいものなし」というか、これだけさんざん行われてきた商売について、まったく新しい大発見が出てくるわけがない。大切なことは言われてみればすべて当たり前のことばかりなのです。

 ドラッカーさんの著作を読めば、経営について本当に大切なことはほとんどすべて言い尽くされている。それにしてもドラッカーさんがゼロからすべてを思いついたわけではありません。それ以前からチェスター・バーナードさんがわりと同じこと言っている。遡ればきりがありません。直接聞いたわけではないので確かなことはいえませんが、ローマ帝国の軍団長やアレクサンダー大王も経営とか戦略について大体同じことを考えていたのではないでしょうか。

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