「抽象」と「具体」の往復運動

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 ビジネススクールで勉強しようという人の動機として、「具体的で実践的な知識を習得したい」という声がよく聞かれます。“具体”は実践的で役に立つ、“抽象”は机上の空論で役に立たない、と決めつけてしまうような風潮がビジネスの世界ではありますが、これは思い違いです。具体も抽象もどちらも大切。より正確に言うと、抽象と具体との往復運動を繰り返す、このような思考様式がもっとも「実践的」で「役に立つ」、というのが僕の見解です。

 しばしば「あの人は地アタマがいい」というような言い方をします。抽象と具体を行ったり来たりする振幅の幅の大きさと往復運動の頻度の高さ、そして脳内往復運動のスピード。これが僕の「地アタマの良さ」の定義です。

 もちろん抽象的なモデルや論理だけでは仕事になりません。仕事は常に具体的なものです。しかし、抽象化なり論理化の力がないと、思考が具体ベタベタ、バラバラになり、目線が低く、視界が狭くなり、すぐに行き詰ってしまいます。具体の地平の上をひたすら横滑りしているだけの人からは、結局のところ具体的な打ち手についても平凡な発想しか生まれません。そもそも「人と違ったことをする」というのが戦略ですから、そうした人には戦略は構想できません。

抽象化してみてはじめて分かる
“ニコニコ動画”の本質

 「この人は頭がいいな、デキルな」と感じさせる人は、決まって思考において具体と抽象の振れ幅が大きい。たとえば、ドワンゴ代表取締役会長の川上量生さんもその一人です。

 先日、雑誌『Voice』で彼のインタビュー記事を読み、ドワンゴの戦略の背後にある構想の深さ、奥行きに感心しました。ご存知のようにドワンゴでは、ユーザーが動画を投稿し、その動画の上にコメントを書き込める「ニコニコ動画」というサービスを運営しています。しかしインタビューを読むと、ニコニコ動画を経営する川上さんのさまざまな具体的な意思決定や施策が、きわめて論理化された、抽象度の高いコンセプトから出てきており、それがニコニコ動画の独自性のカギになっているということがよくわかります。たとえば、以下のような話です。

〈ウィキペディアの場合だったら、ユーザー同士に議論を重ねさせて、「答えを収束させていくエンジン」ですよね。だったら逆に、「答えを収束させないエンジン」があってもいいんじゃないかと考えたんです。〉『Voice』2012年2月号(PHP研究所)より引用

 

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