イイ感じで流れる人

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 はっきりした夢や希望や目標があったわけじゃないですね、学校を卒業したときは。とりあえず地元(とある地方都市)から出て独立したいというだけで、とくに何をやりたいということはありませんでした。ま、どうせ仕事をするなら、できるだけ自分のスキなことの方がいいと。単純な発想ですね。

 で、何がスキかというと、アメ車。これはもう自信を持ってスキでした。いまでもスキですけど。とくにシボレーね。昔のカマロとか、そういうのがスキなんですよ。ザ・アメリカンっていうのが。ついでに言うと、ロックンロールもスキですね。チャック・ベリーとかリトル・リチャーズとかそっち系のオールディーズ。僕の齢だと、こういうの聴いてる人はあまりいないですけどね、大スキなんですよ。

 で、横浜にあるアメ車専門の整備工場に整備工として就職しました。紹介してもらったとか、コネがあったとか、そういうことは全然なし。勝手に自分で求人情報を調べて、面接を受けて入社しました。仕事は面白かったですね。なんたってアメ車専門ですから。毎日アメ車を触っていられる。5年間、その会社で整備工をやりました。でも、結局は辞めました。

 なんで辞めたのかというと、やっているうちにだんだん自分の報酬に納得できなくなってきたんですね。あ、安月給とか酷使とか、そういう話じゃないんです。わりといい給料もらってましたよ。社長もいい人でしたし。納得できないというのは、自分の仕事と報酬の結びつきなんです。アメ車専門なんで、お客さんはそういう趣味の人がほとんど。フツーのクルマの修理と違って、競争があまりない。その小さな世界でいいお客さんがきちんとついている。だから、わりといい料金をいただけるんですよ、お客さんから。

 僕がやっていることは、なんてことないフツーの整備。たいして仕事もキツくないのに、まずまずの給料がもらえる。ま、いい商売といえばそれまでですけど、5年もそういうことをしていると、すっとこれでいいのかな、って。仕事ってこんなものなのかな、という疑問が強くなってきました。自分がやっている仕事のレベルからすると、普通と逆の意味で割に合わないというか、自分の仕事にきちんとした価値があって、その対価として給料をもらっているという実感がないんですよ。これだと、ずっと続けていく仕事としていかがなものかと……。

 で、そういう悩みがあって、仕事をどうしようかなと考えていたころに、ちょうど学生時代からつき合っていた子と、そろそろ結婚しようかという話になりました。彼女も地元の人だし、この際地元に帰るか、という気になった。卒業のころはこんな小さな地方の町を出たくてたまらなかったんですけど、都会で暮らしてみると地元の良さもよく分かりましたし。

 ということで、地元で職を探してみると、この町でいちばん大きな工場、重たいもの造っている大企業の輸送機関連の工場なんですけどね、ここが工場の品質管理の求人を出していた。正社員でなくて派遣社員です。でも、話を聞いてみると、派遣から始めても正社員になる道もあるという。結婚することだし、そういう堅い仕事も仕事っぽくていいかな、と転職しました。

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