事業の強み弱みを知り、知財を使い分ける
「NOを合法的にYESにする」、それが知財戦略の基本
――K.I.T.虎ノ門大学院教授・元キヤノン専務・弁理士、丸島儀一氏

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丸島儀一氏まるしま・ぎいち/早稲田大学卒。キヤノン(株)に入社以来、知的財産、製品法務を担当。常務、専務取締役時代に、新規事業育成本部長、研究開発推進委員会委員長、研究開発、国際標準担当なども務めた。2007年からK.I.T.虎ノ門大学院教授。日本特許協会理事長、日本弁理士会副会長、産業構造審議会委員などを歴任。近著に『知的財産戦略-技術で事業を強くするために』(ダイヤモンド社)がある。

日本のものづくり産業が世界で競争力を高めていくために、知的財産を活用した事業戦略や研究開発戦略の必要性が叫ばれている。では実際に経営者や知財部門は何をするべきか。企業の知財経営の先駆け的存在である元キヤノン専務でK.I.T.虎ノ門大学院教授の丸島儀一氏が、2011年11月5日、同大学院で「知的財産戦略――技術で事業を強くするために」と題した講演を行った。ここではその講演内容を抜粋して紹介する。

 メーカーなどの技術系企業が競争で勝つには、技術で優位性を発揮しなければならない。だが単に技術を開発しただけでは、その優位性は維持できない。技術はいったん世に出れば、他の企業に追随される可能性があるからだ。そこで技術を守り、優位性を継続させる役割を果たすのが、知的財産だ。また、技術には必ず知的財産の強みと弱みの両面が存在するが、強みをより強くし、弱みを解消することも知的財産の役割だ。

 技術は今日明日に生まれるわけではない。5年、10年というスパンで先を読み、事業化を意識した研究開発を続けた結果として、ようやく生まれるものだ。知的財産に関しても同じで、5年、10年先を読んで特許を形成しなければならない。知的財産戦略は先読みの勝負でもある。

クロスライセンスで事業を優位に立たせる

 以前、「アップルのiPhoneをどうして日本のメーカーは作れなかったのか」という論調をよく見かけた。技術的には日本メーカーでもiPhoneは作れるだろう。しかし、あの独自のグラフィックユーザーインターフェイスは、アップルが何年も研究開発を続けたからこそ生まれたということを忘れてはならない。それに、iPhoneが出た後に他社が同じようなものを作ってしまったら、それは知的財産の侵害に当たる。

 すでに世に出た商品を真似して新しい商品を作るのはたやすい。だが実際にそれをやってしまうと、知的財産面の弱みを無視したまま商品を世に送り出すことになる。特許を持つ企業に訴訟を起こされれば、弱みを突かれ、自社の強みの特許まで奪われる結果になる。知的財産経営ができていない企業の悲劇だ。そんなことをやっている事業は発展しない。

 ライバルとの競争に勝つには、知的財産戦略が重要だ。具体的には、強みを維持する知的財産は許諾せずに守りつつ、相手企業がこちらの知的財産を使わなければならないような状態を作り、自社商品の弱みとなる知的財産の提供を相手企業から受けて弱みを解消する。つまりクロスライセンスを行い、「NOを合法的にYESにする」こと。こうした攻守の切り替えが知財戦略の基本だと思っている。競争力を高めるためには非常に重要なのだが、多くの日本企業はできていない。

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